薬機法(医薬品医療機器等法)違反の事例集10件と罰則

みなさんは,薬機法(医薬品医療機器等法)という法律を知っていますか?平成25年11月までは、薬事法と呼ばれていた法律で,この名前であれば聞き覚えのある方も多いかもしれません。

薬機法の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といいます。この正式名称を聞いて、医薬品や医療機器なんて自分には縁がないと思われる方も少なくないでしょう。

しかし、薬機法は化粧品や健康食品等の広告等についても規制の対象としており、これらの商品を販売する企業等やこれらの商品の消費者にとっても関係が深い法律なのです。

今回は、薬機法に違反する事例として具体的にはどのようなものがあるのかを見ていきましょう。

目次

薬機法(医薬品医療機器等法)とは?

そもそも薬機法とは,どのような法律なのでしょうか。

この法律は、「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質、有効性及び安全性の確保のために必要な規制を行うとともに、指定薬物の規制に関する措置を講ずるほか、医療上特にその必要性が高い医薬品及び医療機器の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより、保健衛生の向上を図ることを目的とする。」とされています。

薬機法は,医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質と有効性及び安全性を確保するために、「製造」「表示」「販売」「流通」「広告」などについて細かく規制する法律なのです。

薬機法(医薬品医療機器等法)違反の事例集10件

1. ロート製薬子会社が、有効成分の少ない強壮剤を製造販売した事例

薬機法14条1項は,「医薬品(厚生労働大臣が基準を定めて指定する医薬品を除く。)、医薬部外品(厚生労働大臣が基準を定めて指定する医薬部外品を除く。)又は厚生労働大臣の指定する成分を含有する化粧品の製造販売をしようとする者は、品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない。」と規定します。

しかし、神戸市のロート製薬の子会社「摩耶堂製薬」は、男性の更年期障害の改善などをうたった糖衣錠の「金蛇精」とカプセルの「マヤ金蛇精」について、あらかじめ国から承認を得ていた有効成分「ハンピ」(マムシの肉と骨を乾燥したもの)の量について、それぞれ40%と25%少なくした製品を製造し、販売していました。さらに、有効成分を少なくしていたことについて、製造記録も偽っていたとのことです。

2017年1月5日、兵庫県は摩耶堂製薬を6日~17日間の業務停止処分にしました。製品は自主回収され、健康被害の訴えはありませんでした。その後、摩耶堂製薬は、糖衣錠は正しい成分に変えて販売し、カプセルは販売を中止しました。

2. 山本化学工業が、風邪薬の成分に、中国製の成分を無届けで混入した事案

薬機法14条1項が,医薬品等を製造販売する際には,品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならないと規定していることはすでに述べました。承認を得た名称や成分、製法などは、独立行政法人「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」のデータベースに登録する必要があります。

和歌山市の大手原薬メーカー山本化学工業は、風邪薬の成分として使用される解熱鎮痛剤アセトアミノフェンについて、中国製のものを使用する製法を届け出ていなかったにもかかわらず、安価な中国製のアセトアミノフェンを混入し、製薬会社に出荷していました。販売先の製薬会社にも中国製アセトアミノフェンを使用していることは伝えていなかったとのことです。

2017年5月に厚生労働省と県が、「中国製アセトアミノフェンが混ぜられている」との情報に基づき、同社に立ち入り調査しました。その後、山本化学工業は製品の出荷を自粛しました。山本化学工業は、セトアミノフェンについて、国内シェアの約80%を占めている会社でした。

3. 原澤製薬工業株式会社が承認と異なる製造所で医薬品を製造した事例

薬機法14条1項が,医薬品等を製造販売する際には,品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならないと規定していることはこれまでにも述べてきましたが、承認と異なる場所で、医薬品を製造することも、同条に違反します。

東京都の原澤製薬工業株式会社は、一般用医薬品「ネオレバルミン錠」が医薬品製造販売承認と異なる製造所及び製造方法により製造していました。また、同社は、品質管理業務手順書などに基づく製造管理・品質管理の結果を評価せずに、ネオレバルミン錠を出荷していました。

2017年12月27日、東京都は、原澤製薬工業株式会社に対して、薬機法に基づく改善命令を出しました。

4. 小林メディカルの薬事法違反事例

やや古い事例になりますが、薬機法14条関連についての違反事例のなかで、同条3項に違反するものを紹介します。

薬機法14条3項は、「1項の承認を受けようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請しなければならない。この場合において、当該申請に係る医薬品が厚生労働省令で定める医薬品であるときは、当該資料は、厚生労働省令で定める基準に従つて収集され、かつ、作成されたものでなければならない。」と規定しています。

小林製薬の子会社であった、小林メディカルは、2010年10月に、主に高齢者が脚の付け根を骨折した際に埋め込む固定用器具「コバメッド ネイルシステム」(体内固定用大腿骨髄内釘)「コバメッド グラスピングピンシステム」(体内固定用ネジ)という2製品の承認申請の際、器具の強度に関するデータを改ざんしたのです。

この商品は,市場に出回ることはありませんでしたが,小林メディカルは、2011年7月28日から8月6日までの10日間の業務停止処分を受けました。

5. アートメイクの機器を無許可で販売した事案

薬機法23条の2は、「 次の表の上欄に掲げる医療機器又は体外診断用医薬品の種類に応じ、それぞれ同表の下欄に定める厚生労働大臣の許可を受けた者でなければ、それぞれ、業として、医療機器又は体外診断用医薬品の製造販売をしてはならない。」としています。

アートメイクは、針を使って皮膚に色素を注入して眉などを描くものですが、アートメイクの機会は、針を使用するため、医療関連機器として届け出が必要です。
2017年2月、「アートメイク」の機器を無許可で販売したとして、警視庁生活環境課は東京都の会社役員らを逮捕しました。

会社役員らは、2016年2~4月ごろ、無許可で医療機器のアートメイク用機器を台湾から輸入し都内のエステサロンなどに無許可で販売したとされています。会社役員らは機器を仕入れ値の約4倍で販売し、5年間で計6000万円を売り上げたということです。

6. 国内未承認薬の広告を掲載した事例

薬機法68条は、「何人も、第十四条第一項、第二十三条の二の五第一項若しくは第二十三条の二の二十三第一項に規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ第十四条第一項、第十九条の二第一項、第二十三条の二の五第一項、第二十三の二の十七第一項、第二十三条の二十五第一項若しくは第二十三条の三十七第一項の承認又は第二十三条の二の二十三第一項の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。」として承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告を禁止しています。

警視庁は、大阪市の輸入代行会社「ブレインネットワーク」が、犬が感染する病気であるフィラリア症の国内では承認されていない予防薬について会社のホームページに効果や効能をうたった広告を掲載したとして、ブレインネットワークとその社長を書類送検しました。

同社は、自社のホームページに、「(日本では)特にフィラリア予防薬は海外と比べて倍以上」「薬を安価で飼い主様にお届けすることによって、日本のワンちゃん猫ちゃんの暮らしを少しでも改善していければと思っております」等広告し、客から注文が入ると、タイから商品を発送させていました。

7. ノバルティスファーマの降圧剤「バルサルタン」を巡る臨床研究データ改ざん事件

広告関係で、これは、結果的に無罪となったのですが、興味深い事案を紹介します。
薬機法66条1項は、「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。」と、虚偽・誇大広告等の禁止を規定します。

ノバルティスファーマ株式会社のある社員が,高血圧症治療薬であるディオバンという薬に関して、東京慈恵会医科大学及び京都府立医科大学病院での臨床研究の際に、ディオバンの効果を高くみせるため,データの一部を改ざんして研究者に提供し、海外の医学専門誌に虚偽に基づく論文を医師に発表させたとして逮捕、起訴されました。

裁判では、学術論文を投稿することが薬機法の「広告」にあたるかが問題となりました。
裁判所は、2017年3月、「元社員は販促目的で故意に改竄したデータを研究者に渡し、学術雑誌に論文を掲載させた」とする一方で、「掲載前に査読(第三者による事前審査)を経る必要がある学術論文の投稿は、金銭を負担することで掲載内容を決められる広告とは性質が違う。」として、学術論文の投稿は「広告」ではないと判断して、元社員を無罪としました。

8. 電子タバコ用のニコチン溶液を無許可で販売した事案

最近、話題の電子タバコについても、その販売をめぐって薬機法違反で逮捕者が出ています。
電子タバコは、カートリッジに入った液体を電気的に霧状にして吸引する、一般的には紙巻きタバコに似せて作られた製品です。国内では、「ニコチンを含まない」として販売され、近年急速に普及しました。

しかし、国内で販売されている電子タバコの中には、ニコチンが含まれているものがあることが明らかになりました。

ニコチンは、長期間・繰り返し使用すると吐き気や嘔吐などの副作用を引き起こす恐れがある医薬品成分です。ニコチンが含まれる製品は、薬機法による承認を得て販売をする必要があります。

2018年3月、大阪府警は、電子タバコ用のニコチン溶液を、医薬品を取り扱う許可を得ずに店頭販売したとして大阪府の電子タバコ販売店「VAPES」経営者らを逮捕しました。電子タバコ用のニコチン溶液についてはこれが初の摘発事案となりました。

9. 処方箋がないにもかかわらず向精神薬の処方箋医薬品を販売した事案

薬機法49条1項は、「 薬局開設者又は医薬品の販売業者は、医師、歯科医師又は獣医師から処方箋の交付を受けた者以外の者に対して、正当な理由なく、厚生労働大臣の指定する医薬品を販売し、又は授与してはならない。ただし、薬剤師等に販売し、又は授与するときは、この限りでない。」として、原則として処方箋医薬品は、処方箋がなければ販売できないと規定しています。

2018年7月、東京都は、処方せんの交付を受けていない者に対し、向精神薬の処方せん医薬品『マイスリー錠10mg』を複数回にわたって販売し、また、処方せんを交付した医師の同意なしに、処方せんに記載された医薬品を変更して交付した府中市の南圃堂薬局を16日間の業務停止処分としました。

10. ヒルドイドの美容目的利用について

「ヒルドイド」という商品名のヘパリン類似物質という医薬品があります。これは、乾皮症などに処方される医薬品で、大阪府のマルホ株式会社が製造販売しています。

この医薬品は、数年前から美容系のメディア等で、「医者も認める魔法の美肌クリーム」「究極のアンチエイジングクリーム」等紹介されて以来、皮膚科で、患者側からの処方の請求が格段に増えました。

このことは、国の医療費を圧迫するものとして問題となっているのですが、上記のような紹介をすることは、医薬品を、その他の目的で使用することを推奨するものとして薬機法の広告規制にも違反するおそれがあります。

マルホは、これまでヒルドイドに関して美容目的で推奨する記事を確認した場合に、発行元・配信元に、化粧品のように紹介することは控えてほしいと要請してきましたが、2017年10月、さらに医薬品の適応外の使用を推奨することは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」に抵触するおそれがある旨を注意喚起しました。

このケースは、企業等が、薬機法に違反する医薬品等を製造、販売、広告したケースとは異なりますが、やはり薬機法違反の問題が生じうるケースとして興味深いものです。

薬機法(医薬品医療機器等法)違反した場合の罰則規定

<刑事罰について>
以上のケースでも見てきたように薬機法違反は、書類送検や逮捕されたり、さらに進んで起訴され、裁判になっているケースもあります。これは、薬機法違反について、懲役刑や罰金刑などの刑事罰が科せられているからです。

具体的には、広告規制違反で、「2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこの両方」が科せられる可能性がありますし、無許可薬物の所持・販売等については、「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」が科せられる可能性があります。

<行政罰について>
また、薬機法違反については、指導や、業務停止などの行政処分がされることもあります。

まとめ

薬機法の違反事例を具体的に見ていくことで、薬機法が、どのようなことを規制しようとする法律かについて、理解が深まったのではないでしょうか。薬機法が、私たちの生活に密接に関わる法律であることがおわかりいただけたのではないかと思います。

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