国は、次期国会提出予定の薬機法改正案において、虚偽・誇大広告、未承認薬の広告・販売等に対する課徴金制度を新たに導入することを決定しました。
本記事では、薬機法の概要、薬機法改正案における課徴金制度の概要、課徴金制度の対象、課徴金制度導入の背景等について解説します。
薬機法とは?
薬機法の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といい、平成25年11月の従来の「薬事法」の改正により最近名前が変わった法律です。
薬機法は、その正式名称のとおり、医薬品等の品質、有効性及び安全性を確保することにより、国民の保健衛生の向上を目的としています。
具体的には、医薬品等の製造、保管及び販売等について、その効果及び安全性を確保するためのルールを設け、これに違反した場合には、営業停止や罰金を含めたペナルティを課すことを規定しています。
薬機法改正の概要は?
次期国会提出予定の薬機法改正案の目玉は課徴金制度の導入です。
この課徴金制度とは、具体的には、医薬品等に関する虚偽・誇大広告、未承認薬の広告及び販売等の違反に対して、違反行為により得た利益をベースとして算定した金額を納付させることにより、法律違反行為の予防を図る制度です。
このように課徴金とは、行政の規制の違反者に対して、一定額の金銭的負担を強制させることにより、違反行為の抑止を図る制度であり、今回導入予定の薬機法以外でも、既に独占禁止法(昭和52年導入)や金融商品取引法(平成17年導入)などの主として経済活動について規制する法律において導入されています。
課徴金と似た制度としては、「営業停止命令等の措置命令の制度」、「罰金の制度」などがあります。
「措置命令」は、国の許可を得て特定の経済活動を行っている会社の法律違反行為に対して、その営業の停止を命じる制度であり、一定の金銭の納付を強制するものではない点において、課徴金制度とは異なります。
また、「罰金の制度」は、法律違反行為を犯罪と評価して一定額の金銭を納付させる制度です。罰金は、金銭を納付させるという点では課徴金と同じです。しかし、あくまでも罰金は刑罰であり、その背後には犯罪と評価される程度の悪質性の高い行為に対する制裁という意味を持っており、その点において、法律違反行為の抑止を目的とする課徴金と異なります。
なお、日本国憲法は、同一の行為に対する二重処罰を禁止しているところ(憲法39条)、同一行為に対して課徴金と罰金を同時に課すことは、それぞれ目的の異なる趣旨の制度であることから憲法違反ではないと理解されています。
薬機法の規制対象
今回の薬機法改正案において導入予定の課徴金制度の対象になる行為は、①医薬品等に関する虚偽・誇大広告、②未承認薬に関する広告、③未承認薬の販売等の3点です。
ここでの「医薬品等」とは、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生利用製品等を意味します。また、物自体は医薬品等には該当しない場合でも、その効能表示として医薬品等に該当する記載のある場合、健康食品でも「医薬品等」に該当するとして、薬機法の規制対象になります。
次に、違反行為の主体は法律上「何人も」と規定されており、製薬会社等の事業者に限定されていないことに注意しましょう。すなわち、極端なことを言えば、一個人の開発した健康食品でも、実際には存在しない医薬品同等の効能を広告に記載すれば薬機法違反になります。
虚偽・誇大広告については、法律上「明示的であると暗示的であるとを問わず」と記載されており、虚偽・誇大の効能を暗に示唆する内容の広告でも薬機法違反になります。さらに、医師等により効能を保証したものと誤解させるおそれのある記載についても広告違反になるとされています。
また、広告違反について、行政通達では、①顧客を誘引させる(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること、②特定医薬品等の商品名が明らかにされていること、③一般人が認知できる状態にあることの3要件を満たすものは規制対象の「広告」に該当するとしていますから、不特定多数の閲覧できるインターネット上のブログ・SNSでの商品紹介でも規制の対象になる可能性はあります。
なお、上記の広告違反・販売等違反については、現行法において罰則の対象になっていますから、今後は課徴金と罰金の双方を課せられる可能性が生じることになります。
改正薬機法において課徴金制度が導入される理由
改正薬機法において課徴金制度の導入される理由は、主として、
①薬機法違反の広告・販売等の事例は減少していないこと、
②違反者の多くは薬機法上の営業許可を得ていない者であるため営業停止等の措置は抑止効果を期待できないこと、
③違反に対する罰金は司法の厳格な手続を経て課すものであり、上限の関係から違法行為により得た利益の全てを剥奪することは難しいこと
の3点になります。
要するに、従来の薬機法の制度では、どうしても違反行為に対する対応が甘くなり、法律を守るより、法律に反して利益を上げる方が得であるため、違反行為を減少させることができなかったため、法律を見直すことにしたというわけです。
特に、近年、医薬品の製造・販売等に関する大きな不祥事が頻発しており、違反行為による利益を製薬会社等に保持させたままになる現行法の不備が問題視されたことが課徴金制度導入の大きなきっかけになっているようです。
改正薬機法の課徴金制度のポイント4つ
①課徴金制度導入の時期
新たに課徴金制度を導入する薬機法改正案の提出時期は2019年の次期通常国会を予定しています。
現時点において、2019年の次期通常国会は2019年1月下旬の予定ですから、早ければ2019年の春までには課徴金制度の導入された薬機法改正案は成立することになりそうです。
②課徴金制度の対象
前述のとおり、課徴金制度の対象になる行為は、医薬品等の虚偽・誇大広告、未承認薬の広告、未承認薬の販売等です。
規制の対象は、事業者・非事業者を問いません。
虚偽・誇大広告は明示・暗示を問いません。
不特定多数の閲覧に供されるブログ等でも「広告」に該当する可能性はあります。
③課徴金の算定方法
現時点では、課徴金の金額を算定する具体的計算式は明らかではありません。
但し、従来の罰金の上限では違反行為の抑止効果は期待できなかった点を踏まえて今回の課徴金制度が導入された背景からすれば、課徴金の金額は違反行為により得られた(得る見込)売上または利益をベースに算定されることになるでしょう。
また、課徴金に加え、従前どおり罰金を同時に課せられることもあり得ます。このように課徴金と罰金の双方を課すことは憲法の禁止する二重処罰に当たらないとされています。
④課徴金制度に関連する他の制度の導入
国は新たに薬機法における課徴金制度を導入する際、これに関連した他の制度の導入を検討しています。
具体的には、①課徴金制度以外の営業停止命令等の行政措置により違反行為の弊害発生を防止できているときには課徴金納付命令を行わない旨の除外規定の導入、②課徴金納付のような金銭的制裁以外に実際の弊害を生じさせる危険のある虚偽・誇大広告の是正命令の制度の導入などです。
このように課徴金制度の導入の目的である薬機法違反行為の抑止を実効性のあるものにするためには、現実に即した柔軟性のある制度を構築することも大切になるため、課徴金制度に関連した他の制度の新導入の採否についても同様に注目すべき点になるでしょう。
まとめ
新たに課徴金制度を導入する薬機法改正案は2019年の次期通常国会において提出される見込です。
課徴金制度の対象になる行為は、薬品等の虚偽・誇大広告、未承認薬の広告、未承認薬の販売等です。これらの行為は、現行法上、営業停止命令等の行政措置や罰金刑の対象になっています。
しかし、そもそも多くの違反者は営業許可を得ておらず、また、罰金刑では違法行為により得た利益の全てを剥奪できないため、現実問題として、違反行為は抑止できていない状況にあり、今回、新たに課徴金制度を導入することになりました。
課徴金制度は違反行為による利益の剥奪を目的の1つにしていますから、その金額の算定は違反行為による売上または利益をベースに算定される見込です。
また、課徴金制度に関連して、他の行政措置により違反行為の弊害を防止する制度の導入が検討されています。
以上の薬機法における課徴金制度は事業主に限らず不特定多数の閲覧できるブログ等に医薬品等の虚偽・広告等をした場合でも対象になりますから、製薬会社だけでなく、アフィリエイト等のためブログにおいて医薬品等の広告を行う個人の方でも注意を必要とします。
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