商品を消費者に販売する際、現金一括払いで購入してもらうこともありますが、高額な商品などの場合、分割払いやクレジットカード、消費者ローンによる支払い方法を執ってもらうことがあります。
特にクレジットカードは後払いで利用しやすく分割払いなども出来て支払いが簡便なので、近年その利用数が増加傾向にあります。
しかし、これらの分割払いなどの支払い方法は、トラブルが起こりやすい性質があるので、割賦販売法という法律によって規制を受けます。
そこで、分割払いやクレジットカード払いなどを利用して商品を販売する業者側としても、割賦販売法による規制内容を知っておくことが必要です。
割賦販売法は、消費者保護を目的として度重なる改正を行ってきており、大変複雑になって理解が難しいことでも有名です。
今回は、クレジットカードなどを利用した分割払い方法で商品を消費者に販売する際に適用される「改正割賦販売法」について解説します。
改正内容の概要・ポイント
現在施行されている改正割賦販売法の概要やポイントを見てみましょう。
割賦販売法は、次の3つの類型の取引形態に適用される法律です。
①販売業者が消費者との間で直接分割払い契約をする単純な分割払い契約(自社割賦)
②クレジットカード会社を介したクレジット契約(信用購入あっせん)
③消費者金融会社のローンなどを利用したローン契約(ローン提携販売)
自社割賦の場合の契約当事者は消費者と販売業者だけです。
クレジット販売の場合は消費者と販売業者とクレジット会社の3者が契約当事者となります。
ローン提携販売の場合は、消費者と販売業者、消費者金融会社などのローン会社の3者が契約当事者になります。
このような割賦販売は、非常にトラブルが起こりやすい特徴があります。
分割払いの支払い方法を執ると、後払いで現金の手持ちがなくても気軽に購入出来ますし、当初の支払いが少なく、契約金の総額などが認識しにくいので消費者が購入する意思を持ちやすいですが、実は消費者に過大な負担をもたらすケースなどもあるからです。
特にクレジット販売やローン提携販売の場合などは3者間の契約となり、消費者がクレームを言ったり契約全体の解約をしようにも、契約形態が複雑で誰に言えば良いのかわかりにくいという問題背景もありました。
そこで、割賦販売法はこれらの問題に対処するため割賦販売契約について、規制をしているのです。
割賦販売法は、もともと適用対象なども少なかったのですが、改正を重ねるごとにその適用対象を増やしたり規制を強化してきた歴史があります。
たとえば継続的役務(1999年改正)や内職・モニター商法、インターネットを利用したもの(2000年改正)、マルチ商法規制強化(2004年改正)、クレジット規制の強化(2008年改正)などが追加されてきた事項です。
特に、最新の改正内容においてはクレジット規制の強化(指定商品・役務制の廃止)や訪問販売規制、インターネット販売規制がポイントになっています。
この改正割賦販売法は、平成21年12月1日から施行されています。
ポイントを1つずつ見ていきましょう。
1.クレジット販売に対する規制強化
クレジット販売に対する規制の強化の目的は、クレジットカード情報の漏えいや不正使用が増えている現状を背景として、消費者保護を図り、悪質業者の蔓延を防ぎ、公正な割賦販売等取引と円滑な商品流通や役務提供を実現することを目的としています。
具体的な改正点は、以下のとおりです。
まず、商品販売のたびにクレジット契約を締結する個別クレジット業者について、登録制を導入します。
また、訪問販売取引で個別クレジット販売をするときには、調査義務が課されたり、クーリングオフや取り消しなどが可能になりました。
さらに、消費者の信用情報を管理している信用情報機関を経済産業大臣が指定信用情報機関として指定した上で、この指定信用情報機関が保有している個人信用情報をクレジット業者が利用する際にはその調査記録を作成し、保存することが義務づけられました。
この規制強化は、クレジット業者に支払い可能見込額の調査を義務づけることによって過剰な与信を防止することをも目的としています。
また、これまでクレジット販売の定義は「2カ月以上かつ3回払い以上」の取引でしたが、今回からは「2カ月を超える(ボーナス一括払いを含む)」取引となり、適用範囲が拡大されましたし、自主規制機関も強化されました。
さらに、次項にも説明するように、指定商品・指定役務制が廃止され、包括的に規制対象とした上で適用除外をもうけるという方法に変わっています。
2.訪問販売規制強化
訪問販売規制も強化されました。
具体的には、訪問販売業者に対し「契約しない」と意思表示した消費者に対して契約の勧誘が出来なくなったり、通常の必要量を超える商品を販売した場合は、契約後1年間、契約が解除できるようになりました。
3.インターネット取引規制強化
インターネット取引の規制も強化されました。
たとえばサイト上に返品条件を表示していない場合には、商品受け取り後8日間、消費者が送料負担して返品できるようになったり、電子メール広告を原則禁止にするなどの規制が取り入れられています。
指定商品の廃止?
改正割賦販売法においては、指定商品・指定役務制が廃止され、基本的にすべてのクレジット取引を規制対象とする包括規制方式が導入されました。
指定商品・指定役務制とは、たとえば「ふとん」「絵画」などの特定の商品を指定することによって、その指定された商品だけを規制対象とする制度です。
これに対し、包括規制方式の場合は基本的にすべての取引を規制対象とした上で、「~については規制対象としない」などの規制方法を執ります。
改正割賦販売法においてクレジット販売で包括規制方式を執るようになったのは、これまで特定の商品や役務を指定しても、商品や役務はどんどん多様になるばかりで、提供方法も複雑化していくので適切に規制することが困難になる問題背景がありました。
さらに、悪質業者は、規制対象外の商品や役務に目をつけ、いわゆる「法の抜け道」を見つけて消費者にクレジット販売を繰り返し、消費者トラブルが増加するということを繰り返してきたことも背景にあります。
このような「いたちごっこ」状態を解決するために導入されたのが、包括規制方式です。
ただし、自社割賦の場合とローン提携販売の類型についてはクレジット販売の類型ほどトラブルが発生していないので、指定商品・指定役務制が維持されています。
クレジット販売の場合でも、不動産販売については適用が除外されています。
次項以降にて詳しく解説しますが、クーリングオフ制度についても個別に適用除外がもうけられています。
クーリングオフは?
割賦販売法においては、クーリングオフ制度が導入されています。
クーリングオフとは、商品購入や役務提供契約締結後一定期間(8日であることが多い)内であれば、消費者は無条件でその契約を解除できるというものです。
細かく定められた必要事項を記載した契約書面などの交付がない限り、このクーリングオフ期間はカウントされません。
たとえば契約を締結して支払いを開始していても、業者側が必要な書面を消費者に交付していなかった場合はたとえ契約後1ヶ月が経過していてもクーリングオフが出来るということになります。
クーリングオフ制度は、個別クレジット販売の場合にも適用されます。
クレジット販売契約は、販売業者と消費者、クレジットカード会社の3者間契約となっているため、消費者と販売業者との間で起こったトラブル内容を消費者がクレジット会社にも対抗する必要があります。
そこで消費者が販売業者に対して主張することの出来る取り消しやクーリングオフなどの抗弁権について、クレジット会社に対しても主張できるという「抗弁権の接続」が認められています。
この「抗弁権の接続により、消費者と販売業者との間でトラブルが起こり、消費者が販売業者に対してクーリングオフを行使した場合は、同時にクレジット契約も解除されることになります。
ただし、改正割賦販売法にてクレジットカードでの一括払い(2ヶ月以上に及ぶ取引)も規制対象とされましたが、この契約形態についてはクーリングオフの対象からは除外されています。(特定商取引法による規制は受けます)
その他、次項に詳しく解説しますが、そもそも規制対象の適用除外となる商品や役務がありますので、そのような適用除外の取引形態においてはクーリングオフの適用はありません。
規制対象の適用除外となる取引・商品
改正割賦販売法においては包括指定方式がとられて、適用除外がもうけられたことは記述ですが、どのような取引や商品が適用除外となっているのかを確認しましょう。
まず、全面的に適用除外とされているものがあります。
これは、既に他の法律によって規制があり、消費者保護が適切になされているような商品や役務の提供です。たとえば金融商品販売業者が行う金融商品や役務提供等は、金融商品取引法にて規制がありますので規制対象から外されています。
不動産も全面的に適用除外となっています。
次に、部分的に適用除外とされるものがあります。
具体的には、書面交付義務とクーリング・オフ規定の適用除外となるものがあります。
たとえば訪問販売のケースで契約後、直ちに契約の全面提供が予測されるような役務提供の場合などです。
キャッチセールスで、営業マンに飲食店内に誘われて、その場で飲食した場合の外食費用などを考えるとわかりやすいですが、このような場合にオーダーごとの書面交付を求めるのは非現実的です。
さらにマッサージやカラオケボックス、海上タクシーなどの取引も全面的な適用除外例としてあげられます。
次にクーリング・オフ規定のみを適用除外とする商品や役務があります。
具体的には、乗用自動車等があります。
これは契約を結ぶまでにある程度時間がかかりますので、消費者がしっかりと購入について熟慮する期間があるからです。
葬儀等も適用除外となります。
化粧品、健康食品等の消耗品は、少しでも使用してしまうと商品としての価値はなくなってしまうのでクーリングオフの適用除外となります。
生鮮食料品等も、数日で悪くなるので商品価値が著しく減損してしまうことから、クーリングオフは出来ません。
現金取引で 3,000 円に満たない取引も適用除外です。
その他クーリングオフの適用除外とされるものとして、「株式会社以外が発行する新聞」や弁護士の職務などがあります。
割賦販売法は特定商取引法と連動して消費者保護をはかっているので、特定商取引法がクーリング・オフの適用除外とされている商品や役務については、割賦販売法の個別クレジット契約におけるクーリング・オフにおいても適用除外とされています。
まとめ
今回は、改正割賦販売法の概要とポイントについて解説しました。
割賦販売法は、消費者保護を目的として度重なる改正を重ねてきました。
特に近年クレジットカードを利用した販売形態による消費者トラブルが増加していることから、改正割賦販売法においてはクレジット販売に対する規制が強化されています。
たとえばクレジット販売において指定商品・役務制が廃止されて包括規制方式が導入されました。
原則としてクーリングオフ等も可能となり、一部の適用除外のみが規制外となります。
現在クレジットカード会社の加盟店となっていたり、今後クレジットカードを利用した商品販売方法を実施することもあるでしょうから、この改正割賦販売の規制内容には充分注意を払っておく必要があります。
参考にしてみてください。
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