2019年11月27日、改正医薬品医療機器等法(以下「薬機法」といいます。)が成立し、同年12月4日に公布されました。
2019年改正薬機法の主たる内容は、①医薬品等・医療機器へのアクセスの迅速化を図る制度の導入、②医薬品等の安全性確保、③薬剤師・薬局の在り方の見直し、④法令遵守体制の整備です。
この記事では、2019年改正薬機法の概要につき、詳しく解説します。薬機法改正により、一般の方々にも影響が出るとともに、健康美容商品を売る会社は課徴金が注目事項ではないでしょうか。
今後いっそうリスクが増しますので、薬機法を守った販売や表現に注意してください、
薬機法とは?
薬機法の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といい、この法律は医薬品等・医療機器の品質、有効性及び安全性を確保するための規制を定め、それにより国民の健康の維持・促進を図ることを目的としています。
日本では過去に薬害エイズや薬害肝炎など重大な薬害事件が多く発生しました。こうした歴史を背景として医薬品等・医療機器の製造・販売等について国は規制することしたのです。
他方、医薬品等・医療機器の技術発展は日進月歩であり、また、現在社会の環境変化の流れは極めて早いため、薬機法はこれまでに何度も改正を重ねてきました。
それでは、2019年改正薬機法のポイントをこれから4個に分けて説明します。課徴金については、4つ目の法令遵守体制の整備で詳しく説明しています。
1. 医薬品等へのアクセスの迅速化
医薬品等・医療機器は私たちの健康に関わるため、その安全性が確保されていることは極めて重要です。
他方、安全性の確保を過度に重視して、その提供に時間を要すれば、その分、私たちは健康に役立つ良い医薬品等・医療機器の便益を享受する機会は失われてしまいます。
このような安全性と便益享受の迅速化のバランスを図る観点から2019年改正薬機法では、以下の内容の制度が導入されました。
先駆け審査指定制度の導入
(施行日:2020年12月4日以内)
既に承認されている医薬品等・医療機と比較して作用メカニズムの異なる医薬品等・医療機器で治験段階において特に有用性の認められたものについては国がこれを指定して優先的に審査の対象とする制度が導入されました。
また、これまで医薬品等・医療機器のニーズが著しく充足されていない特定の疾病の治療のための医薬品等であり、特に有用性の認められたものについては、同様に国がこれを指定して優先審査の対象とされます。
この制度の導入により、国民は有用性の高い医薬品等・医療機器の便益を迅速に享受することができるようになります。
条件付き早期承認制度の導入
(施行日:2020年12月4日以内)
また、医療上、特に必要性の高い医薬品等・医療機器であるものの患者数が少ないなどで治験のために時間の要するものについては、使用実績の調査及び適正使用のための必要措置の実施などの条件を付して、早期に承認できる制度が導入されました。
この制度により、これまで承認手続に時間を要していた有用な医薬品等・医療機器を早期に利用できるようになります。
医療機器の改良に関する届出制の導入
(施行日:2020年12月4日以内)
従来、一度承認された医療機器を改良する場合には、その改良ごとに逐一改めて承認を得る必要がありました。
しかし、今回の法改正により、事前に安全性が担保された医療機器の改良計画を提出すれば、その計画に従った改良である限り、逐一の承認は不要とされ、事前に改良することの届出を行えばよいとする制度が導入されました。
医療機器の特性に応じた承認制度の導入
(施行日:2020年12月4日以内)
医療機器の開発は日進月歩であり、将来の順次の改良を予定した医療機器については、これを可能とする承認審査制度が導入されることになりました。
従来の制度では、医療機器の改良については、その改良の内容・程度に応じて、臨床試験を要する一部変更承認、臨床試験を要しない一部変更承認及び軽微変更届により対応していたところ、新設の改良可能とする医療機器の承認審査制度により、改良された医療機器の提供を迅速に行うことができるようになりました。
2. 医薬品等の安全性確保に関する制度
医薬品等の添付文書の電子的方法による提供の原則化
(施行日:2021年12月4日以内)
これまで医薬品等の利用に関する添付文書は紙として1つ1つの医薬品に添付された形で交付されることが原則でした。しかし、こうした添付文書の紙媒体での交付は文書の内容に変更のあった場合など文書の交換漏れなどにより適切な情報提供ができない問題がありました。また、そもそも1つ1つの医療機器等に文書を添付することは紙資源の無駄使いではないかとの指摘がありました。
そこで今回の法改正では、医薬品等(下記のとおり「一般用医薬品」は除く。)の添付文書については電子的方法、要するにウェブ上での提供を原則化し、医薬品等の容器には、当該医薬品等の最新の情報を提供するウェブサイトにアクセスするためのQRコード等を記載することが義務付けられることになりました。
但し、医師の処方箋を必要とせずに購入できる一般用医薬品については、使用時に添付文書の内容を直ちに確認できる必要があるため、従来どおり、紙媒体の添付文書を同梱することとされています。
医薬品等の包装等へのバーコード表示の義務化
(施行日:2022年12月4日以内)
一般に商品のバーコード表示により、製品追跡システムの構築が可能となり、物流管理の効率化、医療機関における在庫管理、取り違え防止などに役立ちます。
そのような観点から、今回の法改正では医薬品等の包装等へバーコード表示することが義務化されました。
国際的な整合性のある品質管理手法の導入
医薬品等、医療機器の分野の国際競争の観点から国際的な整合性のある企業の生産性向上に資する規制環境を整備する観点から、改正法では以下の医薬品等及び医療機器の改良、品質管理の効率性を向上させるための各種制度が導入されました。
変更計画(PACMP)による承認事項の変更手続の見直し
(施行日:2021年12月4日以内)
通常、承認後の医薬品等の製造方法等の変更のためには全てのデータを揃えて変更申請・審査を行う必要があり、時間がかかるため、生産性向上の観点からマイナスに働くことがありました。
そこで、改正法では、承認事項のうち製造方法等の変更に関する計画(PACMP)について国の確認を受けることができ、当該計画に従って変更する際には、事前の届出により通常の変更に関する承認審査を受ける必要はないものとされました。
GMP適合性調査等の見直し
(施行日:2021年12月4日以内)
従来、承認された医薬品等については、承認後5年ごとに「品目」単位でのGMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準)及びGCTP(再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準)適合性調査等を行ってきました。
改正法では、この「品目」単位の適合性調査を製造業者の申請に基づき「製造所」の「製造工程の区分」単位での調査を行うことを選択できるものとされました。
QMS適合性調査の見直し
(施行日:2020年12月4日以内)
改正法では、QMS(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準)適合性調査を受けた同一の製造工程を行う複数の製造所のうち、その一部しか利用しない場合において、改めてQMS適合性調査を受けることは不要とされました。
3. 薬剤師・薬局の在り方の見直し
多くの病院では、医師から処方箋を受け取り、これを薬局に提出して薬をもらうシステムが採用されており、これを医薬分業と呼びます。
しかし、従来、この医薬分業に関しては、薬局では単に処方箋に基づく医薬品の調剤・提供の物理的業務を行っているだけであり、必ずしも、患者の服薬情報の一元的把握などの患者の利益になる形での分業は進んでいないとの問題点が指摘されてきました。
そこで今回の改正法では、患者のための医薬分業を促進する観点から、主として以下の3つの制度が導入されることになりました。
薬剤師による継続的服薬状況の把握及び服薬指導の義務化
(施行日:2020年12月4日以内)
第1に、薬剤師に対して、薬剤の適正使用のため必要のある場合には、継続的かつ的確な服薬状況の把握及び服薬指導を行う義務が課せられました。また、薬局薬剤師に対しては、患者の薬剤等の使用に関する情報を他の医療提供施設の医師等に提供する努力義務が課せられました。
地域連携薬局及び専門医療機関連携薬局の導入
(施行日:2021年12月4日以内)
第2に、患者が自分に適した薬局を選択できるよう、機能別薬局として、地域連携薬局及び専門医療機関連携薬局の認定制度が導入されました。
地域連携薬局とは、入退院時や在宅医療に他の医療提供施設と連携して対応できる薬局をいいます。また、専門医療機関連携薬局とは、がん等の専門的な薬学管理に他の医療提供施設と連携して対応できる薬局をいいます。
テレビ電話等による服薬指導の導入
(施行日:2020年12月4日以内)
第3に、薬局の薬剤師の行う服薬指導に関して、例外的に、テレビ電話等の利用を認める制度が導入されました。
従来は薬剤師の服薬指導は対面により行うものとされ、テレビ電話等の利用は禁止されていましたが、近年の高齢化の進展と情報通信技術(IT)の発展を背景とした、オンライン診療等の推進を踏まえ、服薬指導に関しても、ITを利用した対面以外の方法によることを認めることにしたのです。
4. 法令遵守体制の整備
薬機法は医薬品等の品質、有用性、安全を確保することを目的として各種の規制を設けていますが、実際の医薬品等の製造・販売に関わる人々がこれを遵守しなければ、意味がありません。
そこで、今回の改正法では医薬品等の取り扱い業者の法令遵守に対する国民の信頼を確保するため、法令遵守体制の充実化を図ることとしました。その具体的内容は以下のとおりです。
医薬品等の製造販売業者・製造業者における法令遵守体制の整備
(施行日:2021年12月4日以内)
第1に、医薬品等の製造販売業者・製造業者及び薬局に対し、法令遵守に関する責任者を明確にするため許可申請書に薬事に関する業務の責任者を記載することとした上、従業員に対する法令遵守の指針を示し、法令遵守のために必要な人員の選任及び監督体制の整備を義務付けました。
虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設
(施行日:2021年12月4日以内)
第2に、医薬品等に関する虚偽・誇大広告、未承認薬の広告及び販売等の違反に対して、違反行為により得た対価をベースとして算定した金額を納付させる課徴金制度を創設しました。
従来の薬機法の制度では、どうしても違反行為に対する対応が甘くなり、法律を守るより、法律に反して利益を上げる方が得であり、違反行為を減少させることができなかったため、違反行為の抑止の徹底を図るため課徴金制度を導入することにしたのです。
特に、近年、医薬品の製造・販売等に関する大きな不祥事が頻発しており、違反行為による利益を製薬会社等に保持させたままになる現行法の不備が問題視されたことが課徴金制度導入の大きなきっかけになっているようです。
課徴金とは、違反者に対して、一定額の金銭的負担を強制させることにより、違反行為の抑止を図る制度であり、薬機法以外でも、既に独占禁止法(昭和52年導入)や金融商品取引法(平成17年導入)などの主として経済活動について規制する法律において導入されています。以下、改正法の課徴金制度について具体的に解説します。
課徴金の納付を命じられる違反行為
課徴金制度の対象になる行為は、①医薬品等に関する虚偽・誇大広告、②未承認薬に関する広告、③未承認薬の販売等の3点です。
ここでの「医薬品等」とは、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生利用製品等を意味します。また、物自体は医薬品等には該当しない場合でも、その効能表示として医薬品等に該当する記載のある場合、健康食品でも「医薬品等」に該当するとして、薬機法の規制対象になります。
次に、違反行為の主体は法律上「何人も」と規定されており、製薬会社等の事業者に限定されていないことに注意しましょう。すなわち、極端なことを言えば、一個人の開発した健康食品でも、実際には存在しない医薬品同等の効能を広告に記載すれば薬機法違反になります。
虚偽・誇大広告については、法律上「明示的であると暗示的であるとを問わず」と記載されており、虚偽・誇大の効能を暗に示唆する内容の広告でも薬機法違反になります。さらに、医師等により効能を保証したものと誤解させるおそれのある記載についても広告違反になるとされています。
また、広告違反について、行政通達では、①顧客を誘引させる(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること、②特定医薬品等の商品名が明らかにされていること、③一般人が認知できる状態にあることの3要件を満たすものは規制対象の「広告」に該当するとしていますから、不特定多数の閲覧できるインターネット上のブログ・SNSでの商品紹介でも規制の対象になる可能性はあります。
なお、上記の広告違反・販売等違反については、現行法において罰則の対象になっていますから、今後は課徴金と罰金の双方を課せられる可能性が生じることになります。
課徴金制度の対象
前述のとおり、課徴金制度の対象になる行為は、医薬品等の虚偽・誇大広告、未承認薬の広告、未承認薬の販売等です。
規制の対象は、事業者・非事業者を問いません。
虚偽・誇大広告は明示・暗示を問いません。
不特定多数の閲覧に供されるブログ等でも「広告」に該当する可能性はあります。
課徴金の算定方法
納付を命じられる課徴金の額は、原則として違反行為継続中における対象商品の売上額の4.5%です。
但し、業務改善命令等の措置を講じる場合であり、保健衛生上の危害の発生・拡大に対する影響の軽微である場合などには課徴金の納付を命じないことができ、算定された課徴金額225万円未満の場合には課徴金納付命令を行うことができません。
また、同一の事案において不当景品類及び不当表示防止法上の課徴金納付命令のある場合は同法での課徴金の額は控除されます。さらに違反行為を自主的に報告した場合には、課徴金の額を50%減じるものとされています。
なお、課徴金に加え、従前どおり罰金を同時に課せられることもあり得ます。このように課徴金と罰金の双方を課すことは憲法の禁止する二重処罰に当たらないとされています。
薬監証明制度の法制化及び麻薬取締役官等による捜査対象の拡大
(施行日:2020年12月4日以内)
第3に、製造販売の承認・認証を得ることなく又は届出をしないまま医薬品等を輸入しようとする者は国の確認を受けなければならない(これを「薬監証明」といいます。)との従来の行政の運用上の義務を法律上の義務としました。
また、未承認医薬品等の国内流通を防止するため、輸入手続の違反や偽造医薬品等に関する事案において、麻薬取締官の捜査対象を拡大することとしました。
医薬品として用いる覚醒剤原料に関する携帯輸出入の許可制の導入
(施行日:2020年12月4日以内)
従来の法律では、医療用に覚醒剤原料を服用している患者は当該覚醒剤原料を携帯して出帰国することは禁止されている一方、麻薬については治療のために用いるのであれば、これを携帯して出帰国することは認められていました。
改正法では、覚醒剤についても麻薬同様に治療用であれば、国の許可を得れば、これを携帯して出帰国することが認められるようになりました。
その他の事項の法改正
医薬品等行政評価・監視委員会の設置
(施行日:2020年12月4日以内)
過去の薬害事件を踏まえ、医薬品等の安全性確保を目的として、厚生労働省内に医薬品等行政評価・監視委員会を設置することとしました。
科学技術の発展を踏まえた採血制限の緩和
(施行日:2020年12月4日以内)
従来の法律では、採血は血液製剤、医薬品等及び再生医療製品等の製造及び治療行為に限り認められていました。
しかし、最先端の医療、特に採血した血液をiPS細胞の医薬品試験に活用するなどの必要性の高まりから、改正法では、医薬品等の研究開発において国の指定する製品の原料とする目的での採血を認めることとされました。
まとめ
2019年11月27日、改正薬機法が成立し、同年12月4日に公布されました。
今回の法改正のポイントは、①医薬品等・医療機器へのアクセスの迅速化を図る制度の導入、②医薬品等の安全性確保、③薬剤師・薬局の在り方の見直し、④法令遵守体制の整備の4点になります。
新制度の施行日は制度ごとに異なっているものの概ね2年以内、遅くとも3年以内にはすべての制度について運用が開始されることになっています。
2019年薬機法改正は、医薬品等及び医療機器の製造方法等の変更(改良)や品質管理の効率化を図る新制度の導入、患者本位の医薬分業を実現するための薬剤師・薬局の役割の拡充、法令遵守徹底のための課徴金制度の導入など、医薬品等及び医療機器に関わるものすべてに大きな影響を与えるものといえます。そのため2019年改正薬機法の内容を十分に理解しておくことは非常に重要です。
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