広告は事業者にとっての一般的集客方法の1つであり、効果的な広告は大きな集客効果を生みます。事業者でもある接骨院(整骨院)を開業している方々の多くも当然のように広告を利用して集客しているものと思われます。
原則として事業者がどのような広告を行うかは自由ですが、たとえば医療広告に関して国は国民の生命・健康を保護するため、特に厳しい広告規制を設けています。そして、同様の観点から医療類似行為の行われる接骨院の広告に関しても国は特に厳しい広告規制を設けています。
今回は接骨院の広告に関する規制について詳しく解説します。
接骨院(整骨院)の意味とは?
接骨院(整骨院)は柔道整復師免許を有する者による医療類似行為を実施する施設のことを意味します。
※今後は「整骨院」を施術所名称で新たに使うことは禁止になります。参照:厚生労働省
接骨院では、勤務、スポーツ、乗り物の運転を含む日常生活において生じた骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷などの怪我に対する整復・固定・後療などの施術が実施され、これらの施術について健康保険が適用される場合があります。
しかし、接骨院では原則医療行為は禁止されており、外科手術や薬の投与はできません(柔道整復師法16条)。
また、接骨院では、医師の同意のない限り、骨折・脱臼の患部に対し応急手当以外の施術をすることはできません(柔道整復師法17条)。
接骨院(整骨院)と整体院との違い
接骨院(整骨院)に似た名前の施設に整体院があります。接骨院と整体院は共に病院ではなく医療行為は禁止されている点や人の健康を良好にさせるためのマッサージ等を行う点では共通しています。
しかし、整体院と接骨院との間には決定的な違いがあります。接骨院を開設するには柔道整復師という国家資格を有している必要がありますが、整体院を開設するためにそのような国家資格は必要ではありません。
整体院は無資格者による開設が認められている反面、接骨院のように怪我に対する施術はできません。
そのため、整体院において提供されるサービスに健康保険が適用されることはありません。
接骨院(整骨院)の関連する法律
接骨院の営業に関するルールを定めた法律は柔道整復師法です。柔道整復師法では、柔道整復師の資格の取得などに関するルールや柔道整復師の資格に基づいて行われる業務に関するルールが定められています(柔道整復師法1条)。
また、接骨院の広告規制に関連する法令としては、先の柔道整復師法のほか、あはき法(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律の略称)、医師法、医療法、薬機法、景品表示法などがあります。
以下では、柔道整復師法における広告規制を中心に接骨院の広告規制に関するルールについて詳しく解説します。
接骨院(整骨院)の広告規制
広告とは?
接骨院の広告規制について理解する前提として、最初に「広告」の定義について解説します。
そもそも「広告」に該当しなければ広告規制の対象にはなりませんから、どのようなものが広告に該当するか知っておくことは重要です。
従来、広告規制の対象になる「広告」は、①誘引性、②特定性、③認知性の3つの要件を満たしたものであると理解されていました。
「誘引性」とは、簡単に言えばお客さんとして来店してくることを誘う意図があることです。
「特定性」とは、どの店の来店を誘引しているか特定できるということです。
「認知性」とは、広く一般人に認知された状態にあることです。
この3要件を満たしたものが「広告」であると理解した場合、近年増加しているホームページ上の広告は、インターネットユーザーの特定の行為を介して広告に辿り着くことができるため、認知性の要件を満たさず広告規制の対象外であるとされてきました。
しかし、その中で例えば医療法では、時代の流れに対応した形で、広告規制の対象になる広告の要件として「認知性」は不要であるとし、ホームページ上の広告も広告規制の対象としました。
柔道整復師法における広告規制
柔道整復師法24条は接骨院の広告に関するルールを定めています。
具体的には、柔道整復師法は接骨院の広告に記載できる事項を限定しており、それ以外の事項を広告として記載することを禁止しています。
柔道整復師法の定める広告可能事項は以下の4つです。
①柔道整復師である旨、その氏名・住所
②施術所の名称・電話番号・所在地
なお、①②の事項に関する広告でも、その内容が柔道整復師の技能、施術方法又は経歴に関するものであってはならならないとされています(柔道整復師法24条2項)。
③施術日・施術時間
④その他厚生労働大臣が指定する事項
なお、④の事項として厚生労働大臣が指定している事項は以下のとおりです。
イ ほねつぎ(又は接骨)
ロ 施術所開設の届出をした旨
ハ 医療保険療養費支給申請ができる旨
ニ 予約に基づく施術の実施
ホ 休日又は夜間における施術の実施
ヘ 出張による施術の実施
ト 駐車設備に関する事項
上記の広告規制に違反した場合には、一定期間の業務停止命令・柔道整復師の免許取消(柔道整復師法8条)の行政処分のほか、30万円以下の罰金(柔道整復師法30条5号)という刑事罰に処せられる可能性があります。
施術所の名称と広告
厚生労働省で「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関する検討会」が行われており、施術所の名称として以下のガイドラインが設けられる見込みです。
広告可能な名称
ア 柔道整復施術所 → 「○○接骨院」
あはき施術所 → 「○○マッサージ院」「○○はり施術所」(※「○○あん摩マッサージ治療院」「○○はり治療院」のように明確化するか)
同一人が柔整及びあはき業を行う場合 → 「○○接骨院」「○○あはき院」 ※名称を各々広告すること。
イ あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう、柔道整復の提供する施術業態を明示する名称を用いること。
ウ 開設届出の名称と同一であること。
エ 当該施術所のマークや名称が記載された看板の写真。
※但し効果に関するもの、また、回復を保障すると誤認させるような表示は認められない。
広告不可の名称
ア 「医療」と誤解するおそれがあるものを含んでいる名称
○○診療所、○○治療所、○○療院、○○はり科療院、○○治療院、メディカル、クリニック、リハビリ、ドック 等
イ 施術所名だけでは何を行っているか不明な名称
○○堂、○○館、○○道場、○○センター、○○ステーション 等
ウ あはき、柔整以外の施術所と紛らわしい名称
カイロプラクティック、整体院、リラクゼーション、リフレクソロジー、○○矯正 等
エ 対象者を限定するもの
○○女性専門療院、○○レディース、交通事故専門、むちうち専門 等
オ 施術内容・技能・方法を含んでいる名称
東洋医学、中国鍼灸、漢方、気功 等
カ その他施術所と分かりにくい名称
もみ、サロン、ほぐし処、研究所 等
キ 「整骨院」の名称(柔整師の場合)
参照:施術所の名称等について
接骨院(整骨院)の広告規制に関するガイドライン
接骨院にかんする国の詳細なガイドラインはないため、ここでは医療法のガイドラインを参考に紹介します。
医療法では医療広告に関する規制を定め、その運用の指針として国はガイドラインを策定しています。なお「ガイドライン」とは法律上の用語ではなく国の策定する広告規制に関する指針であり、厳密には法的拘束力を有するものではありませんが、広告規制に関する法令の解釈や適用において事実上重要な意味を持ちます。
医療法及びそのガイドラインでは以下のような広告が禁止されています。
①虚偽広告
②比較優良広告
比較優良広告とは他の接骨院と比較して自分の接骨院が優れていることを広告することです。このような広告は仮にその内容が事実でも優秀性について著しい誤認を与えるおそれがあるものとして禁止されているのです。
③誇大広告
④公序良俗に反する広告
⑤主観に基づく治療等の内容・効果に関する体験談
⑥治療等の内容・効果について誤認させる可能性のあるビフォーアフター写真の掲載
接骨院の広告におけるOK表現
接骨院の広告については先に説明したように広告できる事項は法令により限定されており、その限定された事項であれば広告可能です。
ここでは広告可能事項を再度列挙しておきます。
①柔道整復師である旨、その氏名・住所
②施術所の名称・電話番号・所在地
③施術日・施術時間
④接骨又はほねつぎ
実は「整骨」という名称の使用は法令上許容されていません。しかし現実には「整骨院」という名称の使用例は多数あり、法令には抵触するものの事実上許容されている状況にあるようです。
⑤施術所開設の届出をした旨
⑥医療療養費支給申請のできる旨
この記載に関してはあらゆる施術行為が保険適用可能であるとの誤解を招く表現にならないことがポイントです。たとえば、脱臼・骨折に関しての措置は医師の同意がなければ保険適用にならない旨を記載すればOKです。
⑦予約に基づく施術の実施
⑧休日・夜間の施術が可能である旨
⑨出張しての施術が可能である旨
⑩駐車設備に関するもの
接骨院の広告におけるNG表現
技能・施術方法・経歴に関する広告
接骨院の広告において、施術師の紹介は基本事項です。しかし、「姿勢改善を得意とする◯◯」「痛みのまったくない施術で有名な◯◯」や「有名◯◯大学出身の◯◯」などの技能・施術方法・経歴に関する広告は禁止されています(柔道整復師法24条2項)。
医療行為を示唆する広告
接骨院では医療行為は禁止されています。そのため、医療行為を実施しているとの誤解を招く表現の含まれる広告はNGです。
たとえば、「出張診療できます」「交通事故による怪我の治療対応できます」などの表現は「診療」「治療」など医療行為と誤認するおそれのある表現が含まるためNGです。
誇大広告
事実を誇張した表現の広告はNGです。たとえば「改善率100%」「一度の施術でも大きな改善効果間違いなし!」などの表現は誇大広告に該当するためNG表現となります。
比較優良広告
たとえば、「地域唯一の最新機器完備」「お客様満足度ナンバーワン」などの比較優良広告はNG表現になります。その内容が仮に事実の場合でもNGである点に注意しましょう。
接骨院の広告違反事例
埼玉県の接骨院で景品表示法違反
2023年3月14日、埼玉県で接骨院及びエステサロンを経営する事業者に景品表示法にもとづく措置命令が出されました。
この件では、様々な法律違反がありました。
①口コミNo.1
同社が競合他社との比較にあたり選出した事業者には、上位に入るであろう事業者が含まれていませんでした。また、顧客に「口コミ」の投稿を促すため特典を付与していて、自主的に投稿した口コミではありませんでした。
②メディア掲載実績
あたかも、複数の雑誌やテレビで紹介されたかのように表示していたものの、実際は、雑誌の大半は広告により掲載、テレビは他社開発の機器で自社が紹介されたものではありませんでした。
③お客様満足度98.7%
表示の根拠となる調査等の資料がなく、統計的に客観性が確保された調査によるものではありませんでした。
④小顔矯正の施術前と施術後
写真15名のうち2名は従業員だったこと、施術後の写真を恣意的に選定したことが、統計的に客観性が十分に確保されているとはいえないと判断されました。
⑤痩身効果やシワ・たるみへの効果
「美骨盤矯正+選べる最新痩身5種ダイエット」というメニューで、「-7.3kgの体験! ※効果には個人差があります」と表示。
「小顔矯正」で、「戻りにくい小顔矯正 左右バランス、ほうれい線やタルミ・シワが気になる方へ たった1回の施術で小顔をキュッと引き締め効果」などと表示。
これらの表示について裏付けとなる合理的な根拠を示す資料がありませんでした。
※参照:埼玉県の措置命令
この事案は、様々な景品表示法違反の判断基準がわかる事例なので、自身の接骨院のホームページや広告を確認する時の参考にして下さい。
まとめ
広告は一般的かつ効果的集客方法の1つです。憲法により保障された営業の自由・表現の自由により、事業者の広告は本来自由です。
しかし、接骨院の広告に関しては医療広告と同様に公益保護の観点から厳しい広告規制が設けられています。
この広告規制に違反した場合には一定期間の業務停止命令や柔道整復師免許の取消のほか罰金に処せられる可能性があるため、広告規制の内容を十分理解しておく必要があります。
柔道整復師法は接骨院の広告規制の規定を定めており、法律に列挙された広告可能事項以外の事項の広告は禁止されます。また、医療行為との誤認を招くおそれのある表現、誇大広告、比較優良広告などはNG表現となります。
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