エステサロンを経営する際には、各種の法規制を受けることとなります。
たとえば、エステサロンは医療施設ではないので、それと誤認させるような広告表現は認められませんし、消費者を混乱させるおそれのある広告表現方法についても規制があります。
さらに、エステの施術について消費者と契約する際にも、特定商取引法などにもとづく規制を受けますし、エステ業界が自主的に定めているエステティック業統一自主基準も守らねばなりません。
そこで今回は、エステサロンを経営する際に必須の知識となる、エステサロンに対する各種の法規制や自主規制内容について解説します。
エステサロンは薬機法(旧薬事法)の規制対象?
まず、エステサロンが薬機法(別名:医薬品医療機器等法、旧薬事法)にもとづく規制を受けることはあるのでしょうか。
この点、エステといえば、体や皮膚の状態を健やかにしたり、ダイエットなどを目的とすることもあり、化粧品などとも近いイメージがあるので、薬事法による規制を受けるのかとも思えます。
しかし、実はエステサロンについては薬機法によって直接の規制を受けることはありません。
そもそも、薬機法の規制対象は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品、それと指定薬物であり、形のあるものが対象になっています。
これに対し、エステサロンで提供するのは、「施術」です。
よって、エステサロン提供される「施術」については薬機法の規制対象とはならないのです。
ただし、エステサロンにおいて化粧品や薬用化粧品等を販売する際には、当然薬機法による規制を受けますので注意が必要です。
また、エステサロンにおける施術は薬機法にもとづく規制は受けないとしても、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)など各種法令にもとづく規制は受けることとなります。
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エステサロンにおける景品表示法にもとづく規制内容
では、エステサロンにおける景品表示法にもとづく規制内容はどのようなものなのでしょうか。
景品表示法においては、広告表現において許されない3つの類型の表現が定められています。
具体的には、「優良誤認表示」(第4条第1項第1号)と「有利誤認表示」(第4条第1項第1号)と「その他誤認される恐れのある表示」(第3号)です。
まず、優良誤認表示とは、商品やサービス(エステの場合はその役務としての施術)の品質や内容等について、著しく優良であると誤認させるおそれのある表示です。たとえば、ある施術をすると、脂肪分解効果があるかのような表示をしたけれども実際にはそのような効果が認めらない場合などが考えられます。
次に、有利誤認表示は、商品やサービスの価格や取引条件等に関して、実際よりも著しく有利であると誤認させるおそれのある表示です。たとえば、「期間限定、特別お試し価格5980円」「先着50名様限定」などと表示しているけれども、実際には期間を過ぎても同じ価格で役務を提供していたりとか、50名を過ぎても同じ内容の価格条件を維持していた場合などが該当します。
その他誤認させるおそれのある表示とは、上記の他に、特定の商品やサービスについて、内閣総理大臣が、消費者に誤認される恐れがあるとして特に指定・禁止している不当表示のことです。
このように、エステサロンを経営する際には、景品表示法のうちでも特に「優良誤認表示」や「有利誤認表示」の規制に抵触しないように、広告表現に気をつける必要があります。
エステサロン経営に関係する法律
さらに、エステサロンを経営する際には、関係する法律やガイドラインがありますので、以下個別に確認してきましょう。
特定商取引法
まず、エステサロンにおいては特定商取引法にもとづく規制を受けます。
特定商取引法においては、特に消費者が不利益を受けやすい類型の契約を指定業種として定められていますが、エステティックサロンにおける役務提供も指定業種とされているのです。
特定商取引法にもとづく規制内容には、以下のようなものがあります。
まず、エステの契約をする際には、消費者に事前説明書及び契約書を交付しないといけません。
事前説明書においては、事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人は代表者氏名や役務の内容、役務の対価やその支払い時期、方法、役務提供期間やクーリング・オフに関する事項、中途解約に関する事項、割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項、抗弁権の接続に関する事項、特約のあるときには、その内容などの記載が必要です。
また、契約書面においては、役務の内容や対価、その支払い時期、方法や役務の提供期間、クーリング・オフに関する事項、中途解約に関する事項、事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人は代表者氏名、契約締結の担当者の氏名や契約を締結した年月日、購入が必要な商品がある場合には、その種類、数量、抗弁権の接続に関する事項、特約がある場合には、その特約の内容などを記載しないといけません。
さらに、エステティック契約締結の際には、禁止事項も定められています。
具体的には、誇大広告、不実告知、重要事項の不告知(告知しないこと)、威迫・困惑させる行為、契約に基づく債務や契約解除に伴う債務不履行や履行の不当遅延や、消費者の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当な方法での勧誘をすること、契約書面に、虚偽の記載をさせることなどが禁止されています。
また、エステティック契約においては、契約書交付日から8日間の間はクーリングオフ(無条件解約)ができることにも注意が必要です。
ここで、契約書を交付しないと、クーリングオフ期間が進行しないことも覚えておきましょう。
消費者契約法
次に、エステティックサロンにおいては、消費者契約法にもとづく規制も問題となります。
消費者契約法においては、いくつかの禁止事項が定められており、これらに抵触する行為があると、契約の取消原因になりますので注意が必要です。
具体的な禁止事項は以下のとおりです。
不実告知、これは契約を締結する上で、重要な内容について虚偽を述べることです。
断定的判断提供、これは将来の不確実な内容について、確実であるかのような説明を行うことです。
不利益事実の不告知、これは消費者にとって不利益になる事実をあえて通知しないことです。
不退去、これは消費者の自宅や職場に訪問し、消費者から「帰ってほしい」などと言われ退去を求められたにも関わらず退去しなかったことです。
退去妨害、これは、消費者が「帰りたい」などと言って退去を希望したにも関わらず、帰さなかったことです。
これらに該当する行為によって契約を締結した場合には消費者契約法にもとづいて取り消される可能性がありますので、くれぐれも注意しましょう。
エステティック業統一自主基準について
さらに、エステサロン経営の際に必須の知識となるのが、エステティック業統一自主基準です。
これは、法令にもとづく規制ではありませんが、エステ業界が独自に定めているガイドラインであり、エステ業界で平穏に経営を続けていくためには、必ず遵守する必要があるものと言えます。
エステティック業統一自主基準の主な規制内容は、以下のとおりです。
まず、営業に関する遵守事項があります。
継続的役務提供の契約期間は、1年以内とされていて、支払金額の総額は消費者の支払能力を超えない金額を設定することとされています。
支払方法については、その都度払いか一括払いのどちらかを消費者自身が選択できるよう
にすることが望ましく、前受金は、いったん「前受金」、「預かり金」として計上しておいて、実際に役務が消化された時点において、消化された分のみ売上計上することが推奨されます。
未成年者との契約については、親権者の同席の下において、親権者の同意が必要となります。もし親権者の同席が難しい場合には、親権者から「同意書」を受領した上で、電話等の手段によってその親権者の意思確認を実施します。
クーリング・オフに関しても規定があります。
消費者は、契約後(契約書受取後)8日以内ならば、契約の解除が可能であり、このとき、契約に伴う関連商品の契約も同時に解除できます。
クーリング・オフ妨害があった場合には、このクーリングオフ期間の進行が停止します。
事業者は、消費者から上記の適法なクーリング・オフの申し出があった場合は、速やかに解約手続きを行わなければなりません。具体的には、クーリング・オフの申出を受けた日から1ヶ月以内には、消費者に対し精算金を返還する必要があります。
クーリング・オフがあれば、契約に関連して受領している全ての金銭を返金する必要があり、違約金や既に提供した役務の対価も請求することはできません。ただし、一部を使用又は消費された場合に商品価値を失うとして政令で指定された消耗品についてはクーリング・オフの対象になりません。
さらに、消費者は、中途解約権がありますので、契約日から8日が経過した後でも、契約を解除することができ、その契約に伴う関連商品についても同時に解除することができます。
事業者は、この中途解約の申し出があった場合、速やかに解約手続きをすすめて、返還金額を算出し、消費者との解約合意書締結日から1ヶ月以内には返金する必要があります。
中途解約については違約金を定めることも可能ですが、違約金には上限がもうけられています。
具体的には、役務提供開始前であれば2万円、役務提供開始後であれば2万円又は契約残額(契約総額から既に提供した役務代金を差し引いた残額)の10%の金額を比べて低い方の金額が上限となります。
さらに、返品、解約については原則として契約期間内に限って受け付けることや、解約の際の返金額は、関連商品の商品価値を査定した上で計算すること、商品の個別の特性等を考慮して、商品別の査定基準を設定することが求められます。
返品、解約の受付期間や査定基準については、トラブルを避けるためにも消費者に対し、必ず事前に提示・説明することとし、関連商品とそれ以外の商品との区別をわかりやすくして、これらについて消費者が十分に理解したことを確認した上で販売することなども求められます。
さらに、統一自主基準においては、エステサロンの広告表現についても規制を設けていますので、次の項目にて確認します。
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エステサロン広告で禁止されている表現
最後に、エステサロン広告において禁止される広告表現について確認しておきましょう。
まずは、景品表示法にもとづいて禁止される広告表現の具体例を確認します。
たとえば、あたかもその美容サービスのみによって痩身が可能であるかのように誤解させるおそれのある表示をすることは認められません。また、あたかもその美容サービスのみにより体質が改善され、再度太る心配がなくなるかのような表示も認められません。
特別の食事制限を実施することもなくして、当該痩身サービスを受けることのみによって、簡単に、程度の著しい痩身ができるかのような表示も認められませんし、○日で○○キロといった数字を用いた痩身についての表示や、痩身サービスの実行前と実行後の比較対象写真を使って、確実に痩せる効果が得られるかのような表示も認められません。
さらに、通常では考えにくい短期間において、急激に痩せることができるかのような表示や、痩身サービスの利用者の体験談として、架空の体験談を掲載したり、実際の体験例のうちでも事業者にとって都合のよい部分だけを摘出して掲載することはできません。
以上は景品表示法にもとづく規制内容のうち、優良誤認表示になります。
実際には期間限定ではないのに期間限定で3980円と記載したり、実際にはすべての人を対象としているのに「先着30名様のみ、1000円ぽっきり」などとして広告表示することもできません。
これらは景品表示法にもとづく規制内容のうち、有利誤認表示になります。
次に、エステティック業統一自主基準に定められている規制内容を確認しておきましょう。
まず、広告表現において、全く欠けることがないことを意味する用語を用いることは認められません。
たとえば、「完全」「完ぺき」「絶対」「永久」「保証」「必ず」「万全」などの表現を用いることはできません。
次に、他よりも優位に立つことを意味する用語も使用が認められません。たとえば、「世界初」「日本初」「世界一」「日本一」、「超」「業界一」「当社だけ」「他に類をみない」「抜群」などです。ただし、事実として立証できる場合は広告表現として使用可能です。
さらに、最上級を意味する用語である「最高」「最高級」「極」「一級」なども使えませんし、医師法・医療法・薬事法などの法令との関連で、医療や医療類似行為に抵触するおそれのある用語を使用することもできません。
たとえば、「治す」「治る」「治療」「療法」「医学的」「医療」「診察」「診療」「診断」「効く」などの表現をすることはできませんので、注意しましょう。
エステサロンの薬機法違反事例
2021年11月4日に、インド伝統医学「アーユルベーダ」のエステサロンを経営していた女性が、薬機法違反(無許可販売など)の疑いで書類送検されました。
「アーユルベーダで風邪やウイルス感染症に効く天然由来のお茶」などとインターネットで広告し、スリランカから輸入した未承認医薬品の粉末や錠剤を販売した疑いです。
まとめ
以上、エステサロンを経営する際に知っておかねばならない法令による規制内容とガイドライン(自主規制)であるエステティック業統一自主基準について解説しました。
エステティック契約における役務提供は、薬機法による直接の規制は受けませんが、特に消費者に混乱を与えやすい類型の契約業種として、特定商取引法においても指定を受けて規制されますし、消費者契約法にもとづく規制にも注意を払う必要があります。
またその広告表現においては景品表示法にもとづく規制や自主規制基準にもとづく厳しい規制が設けられています。
薬機法による規制がないとしても、これらの法令や自主規制基準においては、かなり細かい規制内容もあり、注意深く遵守する必要があります。
参考にしてみてください。
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