商品やサービスの広告で、「売上No.1」と標ぼうし、その付近に「※当社調べ」という小さな注釈を見かけたことはないでしょうか。
このようなNo.1表記は、「他に比べて最も優れている」ことを標ぼうするものであり、一般消費者の購買意欲を高める分、一般消費者が損をするリスクも高いため、景品表示法では一定の規制があります。
この記事では、景品表示法上のNo.1表記のルールと、「当社調べ」でNo.1表記を行うことはOKなのかを分かりやすく説明します。
No.1表記とは?
No.1表記とは、何らかの指標で他者に比べて「最も優れている」ことを表す表現のことを言います。例えば、「売上No.1」や「顧客満足度No.1」や「業界トップ」や「世界一の品質」などが挙げられます。
事業者が、一般消費者に対して自社の商品やサービスをアピールするのに、とても魅力的な標ぼうであると言えます。
ただ、広告の中には、限定的な条件や範囲内で「No.1」であるにもかかわらず、あたかも全てにおいて最も優れていると一般消費者に誤認させるようなものがあり、近年問題視されています。
No.1表記に必要な調査
No.1表記を使うためには、「客観的な調査」を行う必要があります。
公正取引委員会では、No.1表記が「客観的な調査」に基づいていること、調査結果を正確かつ適正に引用していることが必要とされています。
なお、「客観的な調査」とは、①当該調査が関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施されていること,又は②社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施されていること、が必要となります。
例えば、「顧客満足度No.1」と標ぼうする場合は、マーケティング会社などの第三者機関で、一般的かつ合理的な方法で調査してもらうことで、客観的な調査がされたと言えます。また、調査時期や調査機関などを同広告内に分かりやすく明記することが望ましいとされています。
調査を行っていなかったり、調査方法の要件が遵守されていない場合、景品表示法違反となるので十分に注意が必要です。
No.1表示に合理的な根拠があると認められる条件
消費者庁の資料では、No.1表示に合理的な根拠があると認められる条件として次の4つを満たすことが必要であると書かれています。
①比較対象となる商品・サービスが適切に選定されている
「No.1」を訴求するには、原則として、主要な競合商品・サービスを比較対象とする必要があります。
<問題となる例>
「○○サービス 満足度No.1」等と表示しているものの、○○に属するサービスで、主要な企業の商品やサービスの一部または全部が比較対象に含まれていないなど。
②調査対象者が適切に選定されている
表示内容から認識される、適切な調査対象者を選定する必要があります。
<問題となる例>
「顧客満足度No.1」等と、実際に商品・サービスを利用したことがある者を対象に調査を行っているかのように示す表示をしているものの(※)、実際には、 単なるイメージ調査のみを行っている場合。
※イメージ調査の結果であることを注記していても、「顧客満足度No.1」という表示内容と調査結果が適切に対応していないことに変わりはありません。
「医師の○%が推奨」等と、医師が専門的な知見に基づく判断として「推奨」しているかのように示す表示をしているものの、実際には、医師の専門分野 (診療科など)が、商品・サービスを評価するに当たって必要な専門的知見と対応していない場合。
③調査が公平な方法で実施されている
恣意的な調査とならないようにする必要があります。
<問題となる例>
「おすすめしたい」商品を選択させる場合に、自社商品を選択肢の最上位に固定して誘導している場合。
No.1(○%以上)になったタイミングで調査を終了している場合。
④表示内容と調査結果が適切に対応している
例えば、特別な分類でNo.1になっただけなのに、すべての集計でNo.1になったかのように表示している場合は、表示内容と調査結果が適切に対応しているとは言えないでしょう。
当社調べのNo.1広告は有効?
「当社調べ」を根拠にNo.1表記を使うことは違法ではありません。
第三者の調査でなくても、その調査が関連する学術界や産業界において一般的に認められた方法、または関連分野の専門家多数が認める方法による場合、または社会通念上および経験則上妥当と認められる方法で調査した場合であれば、「客観的な調査」がなされたとすることができます。
そのため、この要件を満たした上で、広告内に「※当社調べ」と明記すれば、No.1表記を使うことができます。
一方、事業者独自の調査方法や、一般的とは言えない調査の場合は、「客観的な調査がなされてない」と判断される可能性があります。そのため、やはり事業者と利害関係のない調査機関等に依頼して調査してもらうのが安全であると考えられます。
景品表示法違反のリスク
優良誤認表示や有利誤認表示を行うと景品表示法に抵触します。
例えば、商品の広告で「世界一の品質」と標ぼうした場合、それを見た一般消費者は、当然に「この商品の品質が世界一優れている」と認識します。
しかし、それについて客観的な調査がなされていない場合は、「合理的な根拠がないにもかかわらずあたかも他より最も優れているかのように誤認させた」として、景品表示法上の「優良誤認表示」と判断される可能性があります。
また、客観的な調査が行われていないにもかかわらず、商品価格について、「値引率No.1」や「地域最安値」などと標ぼうすると、「合理的な根拠がないにもかかわらずあたかも一番お得かのように誤認させた」として、景品表示法上の「有利誤認表示」と判断される可能性があります。
No.1表記の景品表示法違反事例5個
1. 整骨院及びエステサロン事業者の違反事例
2023年3月14日、整骨院及びエステサロン等を経営する事業者が、埼玉県から措置命令を受けました。
その事業者はウェブサイトにおいて、「埼玉県口コミNo1!!」、「くまのみ整骨院・整体院は、大手口コミサイト口コミ数各地でNo1の実績!」等と表示、さらに、店頭表示において、「埼玉県口コミNo1」等と表示していました。
ただ、以下2つの理由で優良誤認となりました。
(1)競合他社との比較にあたり選出した事業者は、比較に使った「口コミサイト」で上位に入る事業者が含まれておらず、統計的に客観性が確保された調査ではなかった。
(2)顧客に「口コミ」の投稿を促すため、「口コミ」を投稿した顧客に対し、サービスの提供や商品券の付与を行っていて、顧客が自主的に投稿した「口コミ」ではなかった。
この事例から分かることは、口コミが実際に1位だったとしても、口コミの集め方に問題があった場合には、優良誤認となる可能性があるということです。
2. オンライン個別学習指導サービスの違反事例
2023年1月12日、「メガスタ高校生」などの名前でオンライン個別学習指導サービスを行う株式会社バンザンが景品表示法違反で措置命令を受けました。(※参照:消費者庁の措置命令資料)
消費者庁は、以下の表示および理由でNo.1表示を優良誤認表示であると判断していました。
「オンライン家庭教師で利用者満足度No.1」
⇒回答者にバンザンが提供する本件役務及び他の事業者が提供する同種役務の利用の有無を確認することなく実施したもので、バンザンが提供する本件役務及び他の事業者が提供する同種役務を利用した者の満足度を客観的な調査方法で調査したものではなかった。
「第1位 オンライン家庭教師口コミ人気度」
⇒回答者の条件を付さずに当該事業者に登録している会員全員を対象に、設定した回答者数に到達するまで実施したものであり、バンザンが提供する本件役務及び他の事業者が提供する同種役務に関して口コミの人気度を客観的な調査方法で調査したものではなかった。
「第1位 AO・推薦入試にお勧め出来るオンライン家庭教師」
⇒回答者の条件を付さずに当該事業者に登録している会員全員を対象に、設定した回答者数に到達するまで実施したものであり、バンザンが提供するメガスタ高校生及び他の事業者が提供する同種役務に関してAO・推薦入試対策のための役務として推奨できるものであるかを客観的な調査方法で調査したものではなかった。
以下が実際の表示例です。
※引用元
3. 電気工事事業者の違反事例
「緊急トラブルかけつけ スピード対応 No.1」、「緊急トラブルかけつけ 顧客満足度 No.1」、「緊急トラブルかけつけ 価格満足度 No.1」と、提供する電気工事について、対応の早さや顧客満足度や価格満足度があたかも1番であるかのような表示を行いました。
実際は、Webサイトから受ける印象を調査したにすぎず、実際に役務を受けた感想等を調査したものではなかったため、有利誤認表示・優良誤認表示であると判断されました。
4. 家庭教師派遣事業者の違反事例
「家庭教師お客様・料金・第一志望校合格満足度3部門第1位」と表示し、「2019年3月全国の子どもがいる20~50代の男女から選ばれました。実査委託先:●●機構」と付記し、家庭教師の派遣事業を行う企業が、第三者の調査の結果、あたかも顧客からの満足度が最も高いかのような表示を行いました。
実際は、2019年2月から3月に調査会社に委託し、インターネット上で収集した家庭教師派遣事業者9者のイメージ調査を行ったものであり、顧客に対しての調査ではなかったため、優良誤認表示であると判断されました。
5. 接骨院の違反事例
「全国の患者様から選ばれてNo.1お客様『評価』★★★★★」などと、提供する役務について、あたかも顧客や医師からの評価が一番高いものであるかのような表示を行いました。
実際は、調査会社に委託しインターネット上で収集した整骨院10者に関するイメージ調査を行ったものであり、客観的な調査が行われているとは言い難いものでした。
また、同社を除く9者の中には、同社の関連の者が2者含まれており、合理的な裏付けがあるとは言えないと判断されました。
まとめ
No.1表記は、非常に魅力的で、商品やサービスをPRするのに使いたくなる表現ですが、安易に使うと景品表示法違反となります。広告するにあたり、少しでも不安がある場合は、詳しい専門家などに相談すべきであると考えます。
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