一般人へ禁止?!医療用医薬品販売の広告規制と将来の変化

インターネットでたくさんの情報が得られるようになり、健康・医療・医薬品に関する情報も一般人が直接得られるようになりました。

そのため、医療機関を訪れる患者は情報過疎の昔に比べれば、驚くほど知識が豊富になりましたが、反面、医療関係者の思いには複雑な面もありそうです。

医療用医薬品の規制や将来起こりうる変化を見ていきましょう。

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目次

医療用医薬品を販売するときの広告規制

薬
まずは医薬品の広告に関する薬事法(現:医薬品医療機器法)の規定をみてみましょう。
医療用医薬品を販売する際の広告規制については、基本的に一般用医薬品の広告規制と同様ですが、一般用医薬品とは違って、医療用医薬品は以下の「特定の疾病用の一般への広告の禁止」の規定に従い、原則的にすべての医療用医薬品について、行政指導(通達)によって、一般への広告を禁止しています。

特定の疾病用の一般への広告の禁止

この条文は、医薬品のうち、特定の疾患に関する医薬品の一般への広告を禁ずる規定です。

(特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品の広告の制限)
第六十七条 政令で定めるがんその他の特殊疾病に使用されることが目的とされている医薬品又は再生医療等製品であつて、医師又は歯科医師の指導の下に使用されるのでなければ危害を生ずるおそれが特に大きいものについては、厚生労働省令で、医薬品又は再生医療等製品を指定し、その医薬品又は再生医療等製品に関する広告につき、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告方法を制限する等、当該医薬品又は再生医療等製品の適正な使用の確保のために必要な措置を定めることができる。

今日では、「がん」は患者に告知されることが多くなりましたが、しかし、なお、がんを告知されることによって精神的なダメージを受ける人は少なくありません。そして、告知されなくても、自分が使用している医薬品が「抗がん剤」であることを知ったことから、絶望的な思いに陥ってしまう人もいます。

そのような事情への配慮から、この規定が設けられました。
現在、政令で指定されている疾患は、「がん」、「肉腫」および「白血病」です。

実は、一般への医薬品の広告は、薬事法(現:医薬品医療機器法)ではがんなどの特定疾病の治療薬の禁止規定しかありませんが、厚生労働省は、すべての医療用医薬品について、行政指導(通達)によって、一般への広告を禁止しています。

医薬品の広告は、その広告の仕方によっては、重大な病気をもつ人が、医薬品の使用を誤ったり、また過大に期待して治療の機会を失って手遅れになったり、思わぬ副作用の被害にあったりしかねません。このため法律ではこのような医薬品の広告に厳しい規制の枠をはめているのです。

そのため、医療用医薬品の広告は一般用医薬品と違ってDTC(Direct to Consumer = 消費者直接広告)による疾患啓発広告が主となります。

それでは、厳しい広告規制の中で、昨今の高度情報化社会になり、どのような変化を生み出したのかを列挙してみましょう。

一般人(患者)視点での高度情報化社会による変化


具体的な変化を列挙します。

  • TVの健康系番組におる疾患知識の習得により、受診行動につながる
  • マスコミ情報により生活習慣改善への意識改革につながる
  • 情報機関誌やネット情報を事前に調べることで、受診に最適な医療機関の選別をしやすくなった
  • 新薬情報がすぐに手に入ることで、医療機関での処方内容に変化を促すことにつながる
  • 患者会の活発化で疾患、治療、新薬、医療機関などの情報交換が全国レベルで行われるようになった。時には未承認新薬の早期承認の強力な力になっている。
  • ジェネリック医薬品(GE)のTV宣伝によって、医療費自己負担額の軽減のためのGEへの処方希望がしやすい時代になった

このように高度情報化社会は、多くの変化を一般人に与えました。
豊富な情報を豊富なメディアを駆使して末端の生活者まで送り届けることが容易になった現代の社会環境は、もはやIT革新を抜きには語れません。
情報のデバイスの進化も情報の受け手の裾野を広げるのに重要な役割を担っています。

医療機関視点での高度情報化社会による変化

病院
見方を変えて、この高度情報化社会が医療従事者にどのような変化を与えたのかを整理しておきたいと思います。
およそ、次のようなことが現場で起こっているのではないでしょうか。

  • 多くの医療機関が自院のWebサイトを構築することで、社会に発信している情報の比較が他院との間で容易にできるようになった
  • 医療機関の口コミ情報サイトの出現により、経営、患者サービスに関する本格的な改革が必要だと認識されるようになった
  • 医師同士のコミュニティサイトの出現で、さまざまなテーマでの全国の医師との情報交換がしやすくなった
  • 患者相談サイトの出現で、医師と患者との距離感が縮まり、患者の切実な思いを受容する機会ができた
  • 「MR君(エムスリー株式会社)」などの営業支援サービスの登場で、医師と製薬企業とのコンタクトポイントが広がり、面談時間をとることなく意思伝達が可能になった
  • 必要なときに必要とする医薬品情報を、専門ポータルサイト(製薬企業サイト、疾患別啓蒙サイト、学会サイトなど)を経由して入手できるようになった
  • マネジメント系の学会(日本医療病院管理学会、日本クリニカルパス学会、日本医療マネジメント学会など)の発展によって、医師以外のすべての医療従事者が参加することで、真の患者中心の医療の必要性を医療機関全体で考える機会を持てるようになった

高度情報化社会における今後の課題は、多くの最適な情報を本当に必要としている医療従事者や患者に正確に届ける確実性と効率性にあると考えられます。

そこには豊富な情報コンテンツを確実にターゲットに届け、成果を上げる「リッチコンテンツ広告」の定着がなくてはなりません。この観点から、今後の一般人(患者)や医療従事者への対応を、どのようにしていくべきかが重要です。

これまで製薬企業は医療機関や患者に対して情報提供という観点からは多くの役割を果たしてきました。
しかし、それらが本当に医療機関や患者のニーズ、ウォンツに合った貢献になっていたかというと、必ずしもそうではなかったのではないかという疑念にぶち当たります。

その疑念のもとにあるのが、情報提供があくまでもワンウェイであって、決してインタラクティブではなかったということです。その解決のため、一般産業や米国ではすでに先に進みつつある新たな広告手法をのぞいてみる必要があるでしょう。

B2C2Cモデルの構築

ソーシャルネットワーク
B2C2CのBとは企業(Business)を指し、Cは顧客(Customer)および消費者(Consumer)を指します。
つまり、製薬企業あるいはポータルサイトを運営するITベンチャー企業(Business)が、当該疾患領域のキーオピニオンリーダー(KOL)であるドクター(C=Customer)を介して医療消費者である患者(C=Consumer)のために、ドクターと患者とのコミュニティサイトを作り、その中で情報交換をするインタラクティブなネットワークシステムを目指します。

この仕組みを構築できれば、患者は、疾患ごとのコミュニティサイト内で患者自身の疾患や治療に関する悩みを共有でき、それに対するKOL(Key Opinion Leader)のコメントも得られます。

製薬企業が、自社品の効果は改善点、あるいは競合他社品の印象を探りたければ、KOLからコミュニティ内で話題を投げかけてもらい、患者からの反応を拾えばよいでしょう。また、治験患者の募集も容易となります。また未知のアンメット・メディカルニーズの発掘も可能となり、製薬企業の研究開発テーマの立案に役立てることにもつながります。

この「B2C2Cモデル」の具現化には、製薬企業単独としてやるのか、ITベンダー企業がポータルサイトとして運営するのかが悩みどころとなるでしょう。製薬企業にそれだけの機能・体力が備わっているのであれば自前でやってもよいのですが、現状ではそのレベルに達している製薬企業はあまり多くありません。

したがって、最も効率的な形は、ITベンダー企業および広告代理店とのアライアンスということになるでしょう。

DTCの規制概念を壊す

破壊
B2C2Cモデルは、医薬品業界のDTC(Direct to Consumer = 消費者直接広告)の概念を根本から変えるものになります。

我が国のDTCの始まりがテレビ、新聞等マスコミによる疾患啓発活動とすれば、この段階を「第1世代DTCマーケティング=DTCマーケティング1.0」とすることができます。

次にクロスメディア・マーケティングが加わることによって、各種メディア活用による啓発活動と疾患Webサイトをリンクさせることによって、従来よりも患者と企業が近い距離になりました。これが「第2世代DTCマーケティング=DTCマーケティング2.0」ということになります。

この次の段階は、医療従事者と患者のコミュニティの場をインターネット上に形成し、ソーシャル・ネットワークとして企業のバックアップのもとに患者を支援していく形を取ります。つまり「B2C2Cモデル」への発展です。

これはいわゆる「Patient Advocacy Marketing」の進化形といえ、ここにきてはじめて「第3世代DTCマーケティング=DTCマーケティング3.0(以下、DTC 3.0)といえるのです。

コミュニティ内では、疾患のことは当然として、具体的に治療薬についての情報交換が、ごく自然に行われることになるため、企業にとっては、最も確実性があり、効率的なDTCをスムーズに行うことができるのです。

DTC3.0がもたらすインパクト

驚く女性
DTC3.0は、これまでの製薬企業のマーケティング&セールスの概念も変えていくことになるでしょう。
では、どのようなインパクトがあるのか列挙しておきます。

①マーケティングコスト効率が格段に向上する

見えない不特定多数の患者向けに行ってきた従来型のDTCは破格の費用を要し、その高額なコストのために中途半端な段階で終わるケースが多くありました。コスト効率も疑わしいのが常でした。DTC3.0は高額を要するTV、新聞媒体を使う必要がなく、Webサイト内で完結する世界であり、そのうえ、ターゲット患者および対象ドクターがコミュニティ内に存在するため、見える相手に向けての情報発信となり、反応が読み取りやすくなるため、コスト効率が高まります。

②コンタクトセンターによる充実した対応が実現できる

従来型のお客様対応の部署ではなくなり、Webサイトの内の高度な顧客対応機能によって、DTC3.0のコミュニティに属する会員(患者、KOL)からの連絡にはWeb機能(動画ストリーミング、即時検索システム、スカイプ機能など)を最大限活用できるとともに、逆にコンタクトセンターからの充実した対応(疾患啓蒙、アドヒアランス確認、新薬開発状況紹介、治療ガイドライン情報・国内外学会情報・医療制度情報などの提供)によって企業のブランディングが図られます。

③治験患者募集がコストゼロで可能になる

従来から行われてきました新聞広告一面での治験患者母数には高額な広告費を要していましたが、DTC3.0のコミュニティ内でアナウンスすることによって、コストをかけずに対象患者を集めることができます。

④MR人数の削減に寄与できる

少なくとも患者会が存在するようなアンメット・ニーズの高い疾患領域の薬剤は、DTC3.0のコミュニティ内で情報交換されるため、情報を得た患者は専門医受診時に処方を希望できます。よって、当該薬剤をPRするMRは必要最小限にまで削減できることになります。

⑤新薬開発テーマの新たな発見に寄与する

DTC3.0のコミュニティには数多くの疾患患者が会員として所属しています。中には医学会、薬業界では未知の主訴で悩み続けている患者も出てきます。そうしたコミュニティ内での埋もれたアンメット・メディカルニーズを発掘できることによって、新たな治療薬開発のテーマが生まれることになります。テーマ探索のためにかけてきた今までの無駄な時間と人件費が節約できることになります。

まとめ

厳しい広告規制(特定の疾病用の一般への広告の禁止)の中でDTC3.0がもたらす医学会、医薬品業界への影響は計り知れないものがあります。

・マーケティングコスト効率が格段に向上する
・コンタクトセンターによる充実した対応が実現できる
・治験患者募集がコストゼロで可能になる
・MR人数の削減に寄与できる
・新薬開発テーマの新たな発見に寄与する

今後はメディア戦略のコストパフォーマンスを熟慮した企業活動が求められます。

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