医療機器は、その使用により健康の維持・増幅の効果を持つ反面、誤った使用方法等により健康を害するリスクを伴います。
そのため、国内において販売される医療機器については、そのリスク等に応じた承認等により、その安全性および有効性を保証する制度になっています。
近時、インターネットの発達により、国外において製造・販売された医療機器の情報を簡単に入手することができるようになり、海外の医療機器を輸入する事例は増加しています。
今回は、国外の医療機器の輸入に関する法律等の規制、その注意点について解説します。
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医療機器とは?
医薬品医療機器等法における「医療機器」とは、
①人又は動物の疾病の診断・治療・予防に使用されること
または
②人又は動物の身体の構造・機能に影響を及ぼすこと
を目的とする機械器具等(再生医療機器を除く)であり、政令において定められているもの
です。
なお、上記①又は②の目的のある機械器具でも、マスクのように政令において定められていないものは医療機器には該当しません。
また、医療機器は、そのリスクや目的・用途に応じて以下のように分類されています。
医療機器の類型 | 内容 | 具体例 | |
---|---|---|---|
一般医療機器 | クラスⅠ | 副作用又は機能の障害が生じた場合、人の生命又は健康に影響を与えるおそれのないもの | X線フィルム、手術用不織布など |
管理医療機器 | クラスⅡ | 副作用又は機能の障害が生じた場合、人の生命又は健康に影響を与えるおそれのあるもの | X線撮影装置、心電計、超音波診断装置、注射針など |
高度管理医療機器 | クラスⅢ | 副作用又は機能の障害が生じた場合、人の生命又は健康に重大な影響を与えるおそれのあるもの | 人工透析器、人工呼吸器、人工骨など |
クラスⅣ | 身体に対する侵襲性が高く副作用又は機能の障害が生じた場合に生命の危機に直結するおそれのあるもの | ペースメーカー、人工血管など |
クラスⅠの一般医療機器の場合には原則届出により製造を開始できます。
他方、一部のクラスⅡの管理医療機器(指定管理医療機器)については認証、その他の管理医療機器・高度管理医療機器は承認を得なければ製造することはできません。
医療機器の輸入は許可されない?
医療機器の輸入は原則医薬品医療機器等法に基づく許可のない限り認められません。
但し、一般個人の自己使用目的での輸入の場合のように海外の医療機器の不特定多数者に対する流通のおそれのない場合には、医薬品医療機器等法の許可を得ることなく、所定の手続を踏めば輸入できます。
つまり、販売目的での海外の医療機器の輸入は医薬品医療機器等法に基づく安全性および有効性の審査・承認を得ない限り認められないものの、自己使用目的での輸入(これを「個人輸入」といいます。)の場合には未承認の医療機器でも輸入できるのです。
医療機器を輸入するための条件
輸入禁止対象の医療機器ではないこと
第1に輸入禁止対象の医療機器の場合には、当然、輸入はできません。たとえば、一般個人は医科向けの医療機器を輸入することは禁止されています。
医科向けの医療機器とは、医師の指示等により使用されることを想定された医療機器のことをいい、使用者の自己判断により使用できる家庭用医療機器とは区別されています。
医薬品医療機器等法の許可の取得
第2に医療機器を販売するために輸入する場合には医薬品医療機器等法に基づく許可を得る必要があります。
薬監証明書の取得
販売を目的としない医療機器の輸入の場合でも、原則、地方厚生局の発行する薬監証明書を取得しなければ輸入できません。
医療従事者による医療機器を患者に使用する目的での輸入のケース
医療従事者は
①治療上の緊急性のある場合
かつ
②国内に代替品の流通していない場合
かつ
③輸入者の自己責任の下での診断・治療に供する場合
に限り、薬監証明書を取得して、医療機器を輸入することができます。
美容医療機器やサンプルも同じ?
美容医療機器?美容機器?
医薬品医療機器等法において「美容医療機器」を定義する規定はありません。
そのため、美容関連商品を輸入する際のルールを理解するにはは、まずは、その目的等に従い、医療機器の該当性を判断しなければなりません。たとえば、筋肉の運動のみを目的としている美顔器は医療機器には該当しません。
他方、顔のシミを除去するシミ取りマシンのように身体の構造・機能に影響を及ぼす目的のあるものは医療機器に該当します。
美容医療機器の輸入
美容医療機器は医療機器である以上、これを輸入する場合には医薬品医療機器等法に基づく規制の対象になります。
まず、販売目的での美容医療機器の輸入の場合には医薬品医療機器等法に基づく承認・許可等を得なければなりません。
また、一般個人の自己使用目的での輸入、医療従事者の治療のための使用目的での輸入、サンプルとしての輸入の場合には薬監証明を取得します。
美容医療機器を輸入する際の注意点
他の海外の医療機器と同様に未承認の美容医療機器については、その安全性および有効性についての保証はないため、すべて自己責任での輸入・使用になります。
特に美容関連の製品は一般消費者の美容に対する意識を利用して粗悪品、詐欺的広告などの横行する危険の高い製品であるため、その輸入・使用には一層の注意を要するでしょう。
この点、最近、医師により、しわ取りなどのために輸入・使用されていた医療機器の使用回数制限を無効にするチップ(改造チップ)により、使用者にやけどの健康被害を生じさせた事例が報告されています(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000152001.html)
未承認医療機器の輸入が認められる条件
国の承認を得ていない海外の医療機器の輸入については、流通の可能性のないケースに限り、自己責任の下、所定の手続を経れば、許容されています。
すなわち、海外の未承認の医療機器を輸入するためには、以下の①~⑧の場合に限り、原則、必要書類を提出することにより薬監証明を取得すれば許可されます。
①臨床試験に使用する目的での輸入
②治験の検査等に使用される医療機器に輸入業者が表示等を行い治験を実施する別の業者に供給するための輸入
③試験研究等に使用する目的での輸入
④展示(学会・展示会など)目的での輸入
⑤個人用での輸入
⑥医療従事者個人用での輸入
⑦再輸入品・返送品用(修理・不良品交換)での輸入
⑧自家消費用での輸入
未承認医療機器の個人輸入の注意点
未承認医療機器の個人輸入の条件
未承認医療機器の個人輸入は、原則、地方厚生局に対し、輸入報告書・商品説明書を提出することにより「薬監証明書」(販売目的ではない輸入であることの証明書)を取得すれば、認められます。
飽くまでも自己使用目的での輸入に限定されていますから、輸入した医療機器を他人に譲渡することは禁止されます。
以下の①~③の医療機器は規定量の範囲内の輸入の場合には例外的に薬監証明は不要です。
①家庭用医療機器(電気マッサージ器など):1セット
②使い捨て医療機器(使い捨てコンタクトレンズなど):2ヶ月分以内
③体外用診断薬(排卵検査薬など):2ヶ月分以内
なお、一般個人は医科向けの医療機器を輸入することはできません。
また、個人の判断での使用により重大な健康被害の生じるおそれのある医療機器として国から指定された医療機器については個人輸入することはできません。
未承認医療機器を使用する際の注意点
未承認医療機器を輸入して使用する際の注意点はいくつかあります。
まず、大前提として、海外では医療機器として販売されていない器具でも医薬品医療機器等法における「医療機器」に該当すれば同法の規制対象になる点です。
次に、未承認の医療機器は日本の審査基準に基づく安全性および有効性についての保証はないことに注意しましょう。
仮に海外の未承認医療機器を使用して健康被害の生じた場合には自己責任となり承認医療機器の使用による健康被害について対象となる公的救済制度は利用できません。
また、海外医療機器の説明書等は当然外国語により記載されているため、その使用上の注意事項に関しては正確に理解できないことがありますから、万が一の事態の生じた際に適切な対応をとることができないリスクがあることにも注意しましょう。
輸入した医療機器を販売するために必要なこと
海外において製造される医療機器を輸入して国内において販売する行為は医療機器を不特定多数の者に流通させることになるため、個人輸入とは異なり、医薬品医療機器等法に基づく承認・許可等を得なければなりません。
輸入した医療機器を販売する行為は、①海外における医療機器の製造、②製造された医療機器の輸入、③輸入した医療機器の販売により構成されます。
この一連の行為を適法に行うには、原則として、①製造販売業の許可、②製造販売の承認、③製造業の許可、④外国製造業者の認定、⑤GMP適合性調査を必要とします。
製造販売業とは、医療機器の製造から販売までの一連の業務を意味します。
また、製造販売の承認は販売する医療機器の種類に応じた安全性および有効性についての国による承認のことです。
この製造販売の承認を得るには、当該製品の製造所における製造管理・品質管理につき国の定める基準(GMP)を満たしている必要があるため、GMP調査を経る必要があります。
製造業は製品の製造を意味するところ、ここには包装・表示・保管を含むため、海外において製造された製品でも包装・表示・保管を行う場合には、日本における製造業の許可を取得する必要があるのです。
輸入品の販売のためには当該製品につき外国製造業者の認定のある製造業者により製造されたものであることを必要とします。
まとめ
医療機器は、その使用により健康の維持・増幅の効果を持つ反面、重大な健康被害の生じさせるおそれのあるものです。そのため、国内において医療機器を販売するには、医薬品医療機器等法に基づき、その安全性および有効性について国の承認を得ることになっています。
他方、昨今のインターネットの発達により、海外の未承認医療機器の輸入するケースは増加の一途を辿っています。
医薬品医療機器等法は安全性および有効性に問題のある医療機器の不特定多数者に対する流通を防止するための規制を定めており、そのようなリスクのない医療機器については自己責任の下での輸入・使用を許容しています。
一般個人の自己使用目的での医療機器の輸入(医療機器の個人輸入)については、原則、地方厚生局の発行する薬監証明書(販売のための輸入ではないことの証明書)を取得すれば、輸入することができます。また、例外的に特定の医療機器については規定の数量の範囲内であれば薬監証明書を取得することなく輸入することができます。
海外の美容に関連する機械・器具の輸入については、医療機器に該当する限り、医薬品医療機器等法の規制対象になります。このことはサンプルとして輸入する場合でも同様です。
近時、医師の輸入した海外の未承認の美容医療機器の使用による健康被害の事例が報告されているように、海外の未承認医療機器を使用する際には、そのリスクについて十分に確認して、健康被害の生じないよう注意する必要があります。
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