医薬品は人の健康を維持・増幅させる効果を持つ反面、副作用等のリスクを伴います。そのため、国内において製造・販売される医薬品については、その安全性および有効性につき医薬品医療機器等法に基づく国の承認・認可等を得る必要があります。
他方、海外の医薬品については、国内の医薬品とは異なり、その安全性および有効性につき国の承認・許可等の対象にはなりません。
ところで、昨今のインターネットの発達により、一般人でも簡単に海外の医薬品の情報を入手することができるようになりました。
これにより、インターネットを通じて海外医薬品を購入する消費者の数は増加傾向にあります。今回は、こうした海外医薬品の個人輸入についての法律と規制について、詳しく説明します。
国内における医薬品とは
医薬品の法律上の定義
医薬品医療機器等法における「医薬品」とは、①日本薬局方に収められている物、②人又は動物の質病の診断、治療又は予防に使用されることを目的とした物(機械器具等・医薬部外品を除く。)③人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことを目的とした物(機械器具等・医薬部外品・化粧品を除く。)の3つです。
日本薬局方とは聞きなれない言葉ですが、これは医薬品の性状および品質の適正を図るため国により定めた医薬品の規格基準書のことです。
国内における医薬品には、上記定義に該当することを前提として、(ⅰ)日本国内において製造・販売された医薬品と(ⅱ)海外において製造・販売され輸入された医薬品の2類型あります。
国内の医薬品の流通に関する規制
医薬品医療機器等法に基づく国内の医薬品の流通のフローは以下のとおりです。
①開発初期段階での試験・動物実験による安全性の確認
②治験による人体に対する有効性と安全性の確認
③製造工程における品質管理方法の確認
④①~③の結果を踏まえての医薬品の品質・安全性・有効性の審査による承認
⑤販売後の副作用などの情報収集・分析および販売時の服用方法等の注意事項の説明文書添付
国内の医薬品は、その安全性と有効性について厳格に審査した上、承認したものに限り流通することになり、流通後の品質・リスク管理は徹底されています。
海外医薬品の個人輸入にかかわる法律と規制
まず、海外医薬品の場合には国内において製造・販売される医薬品のように国の承認を得ていない場合があります。
そして、海外医薬品の輸入については、医薬品医療機器等法および関税法などの法律により、以下のルールに従うことになります。
海外医薬品を販売のために輸入するには承認・許可が必要
第1に、海外医薬品を販売のために輸入するには医薬品医療機器等法に従い国の承認・許可を得る必要があります。
海外医薬品を自己使用のために輸入する場合には原則「薬監証明」が必要
第2に、海外医薬品を自己使用のために輸入する場合には原則「薬監証明」を取得する必要があります。
薬監証明とは、海外医薬品の個人輸入に関する必要書類を地方厚生局に提出して、他人への販売・授受を目的としての輸入ではないことの証明してもらうことです。
なお、特定の範囲内の医薬品の個人輸入については、特別に上記の薬監証明を取得することなく輸入することができます。
個人輸入が認められる薬と認められない薬
個人輸入が認められる薬
先ほど説明したように、基本的に自己使用目的での個人輸入の場合には、原則として薬監証明を取得すれば海外医薬品でも輸入することができます。
また、以下の範囲内での個人輸入の場合には、例外的に薬監証明を取得することなく輸入できます。
①毒薬・劇薬・処方箋医薬品:用法用量に照らして1か月分以内
②外用剤(軟膏、点眼薬など):1品目につき24個以内
③その他の医薬品:用法用量に照らして2か月分以内
個人輸入が認められない薬
他方、以下の医薬品については、個人輸入は認められません。
医師による処方のない健康に重大な被害を生じさせるおそれのある医薬品
まず、健康に重大な被害の生じさせるおそれのある医薬品として国に指定されている医薬品(厚生労働省のHP等において確認することができます。)については、医師の処方のない限り、数量に関係なく個人輸入することはできません。
各種の法令等により輸入の禁止されている医薬品
次に、各種の法令において輸入の禁止されている医薬品については個人輸入はできません。
具体的には、①麻薬および向精神薬(医師から処方された医療用の麻薬や向精神薬を本人が携帯して入国する場合は除かれます。)、②覚せい剤および覚せい剤原料、③大麻、④指定薬物(脱法ドラッグ)、⑤ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)により自由に輸入することのできない医薬品および医薬品原料です。
未承認薬の個人輸入は違法?危険?
未承認の海外医薬品は販売目的での輸入の場合には国の承認・許可等を必要とします。他方、現在(2019年4月1日現在)の医薬品医療機器等法では、未承認薬でも個人輸入の場合には違法ではありません。
このように、未承認薬の海外医薬品について個人輸入の場合には承認・許可等を不要としたのは、海外在住時に疾病の治療のため服用していた医薬品については国内において継続して服用するための例外を認める必要性があるためです。
そのため、販売を目的としない場合でも、他人に譲渡する目的での輸入は禁止されており、当然輸入後に他人に譲渡することは認められません。
以上のように未承認薬でも個人輸入に限り例外的に国の承認・許可等なく輸入することは認められています。
もっとも、そのことは、輸入する未承認薬の安全性を保証するものではありません。ですから、安全性および有効性について承認のない医薬品であることを理解して、その輸入および使用は自己責任において行わなければなりません。
医薬品を個人輸入するときの注意点5つ
①安全性と有効性は承認されていない
海外医薬品を個人輸入する際の注意点としては、まず、その医薬品は国により安全性および有効性を承認されたものではないことを理解することです。
仮に海外において承認された医薬品でも、日本の承認基準より緩やかな基準により承認されている場合には、日本と同等の基準により安全性および有効性は保証されているものではないため、安心することはできません。
逆に、製造・販売元の国では当該医薬品について、その安全性および有効性について全く審査されていない場合がありますから、そのような医薬品については特にその輸入・使用についてはリスク管理を求められます。
②虚偽・誇大広告のリスク
日本では医薬品の広告については厳しく規制されているところ、海外では、そのような規制のない場合があります。
その場合には、輸入しようとする医薬品の広告について虚偽・誇大広告のリスクを否定することはできませんから、安易に広告の内容を鵜呑みにしないよう注意しましょう。
③流通過程において不適切に管理・保管されているリスク
日本では医薬品の製造・販売の過程における医薬品の管理・保管を含めて厳格に審査されているため、流通過程における品質の劣化等のリスクは最大限抑止されています。
他方、海外では、医薬品の効能等については承認されている場合でも、その管理・保管についての規制を徹底していない場合があるため、品質の劣化した医薬品を輸入するリスクがあります。
④偽物の紛れ込むリスク
海外の医薬品の中には正規の医薬品を模造した全く効能のない医薬品の紛れ込んでいるリスクが高いようです。
こうした偽物の医薬品は、その使用の効能を得られないばかりか、むしろ健康被害を生じさせるリスクがあるため注意しなければなりません。
なお、正規の医薬品の偽物は知的財産権を侵害する物であるため、そもそも個人輸入自体禁止されていますから、偽物であることを知った場合には絶対に輸入しないようにしましょう。
⑤副作用等の健康被害の生じた場合の対処に関するリスク
国内において正規に流通している医薬品の場合には、万が一、副作用の生じた場合の対処方法について日本語での説明がなされているため迅速かつ適切に対応できます。
しかし、海外の医薬品の場合には、そもそも用法・用量および副作用の注意は外国語での記載になっているため簡単に知ることはできないため、薬の使用により万が一の副作用等の健康被害の生じた際に迅速かつ適切に対応できない危険があります。
また、最寄の医師に相談した場合でも、そもそも国内において流通している医薬品ではないため、医師として適切な対応方法を迅速に指導できない危険があります。
さらには、日本国内の承認薬の使用により生じた健康被害については医薬品副作用被害救済制度という公的救済制度の対象になるところ、海外の未承認薬の使用による健康被害については、その救済対象から除外されていることにも注意しましょう。
海外医薬品の輸入代行や販売はできる?
海外医薬品の個人輸入については、原則、薬監証明を取得すれば適法であり、また、特定の範囲であれば例外的に薬監証明なしに輸入することができます。
そうであれば、そうした適法に行える個人輸入の代行業務は全く問題のないように思えます。
しかし、近時、個人輸入代行を称しながら、その実態は輸入販売などの違法行為に該当する事例が増加しており、安易に個人輸入代行であるから許されるものと判断しないほうがよいでしょう。
海外医薬品の輸入販売は承認・許可等を必要とする
まず、海外医薬品の販売目的の輸入については国の承認・許可等を必要とします。
形式的には個人輸入代行を称している場合でも、不特定多数の消費者からの注文に基づき、海外の医薬品販売業者から医薬品を自分宛に送付してもらい、これを注文者に譲渡する行為は個人輸入には該当しないため承認・許可等なくすることはできません。
未承認薬の広告は全面禁止
未承認薬の個人輸入自体は適法でも広告は禁止されています。そのため、個人輸入代行を称して、インターネット上のサイトにおいて未承認薬を広告することは違法になります。
違法ではない個人輸入代行
適法に個人輸入代行できるケースは以下のような場合です。
①消費者A(注文者)の代行業者に対する自己使用目的の海外医薬品の輸入代行依頼
②①に基づくAの代行業者に対する代行料と商品代金の支払
③②に基づく代行業者の海外業者に対する当該医薬品の注文および注文者に対する発送依頼
④③に基づく代行業者の海外業者に対する商品代金の支払
⑤海外業者による注文者に対する商品の発送及び注文者の商品の受領
医薬品の個人輸入で逮捕・摘発された事例5つ
医薬品の無許可販売で逮捕
2024年1月、医薬品の販売許可がないシンガポールの会社から個人向けの輸出と称して、日本国内の客に薬を販売した医薬品販売会社の代表取締役含む2名が、薬機法違反の疑いで逮捕されました。
シンガポールの会社のWebサイトで個人に対する輸出として注文を受け付けていたものの、警察はこの会社には実態がなく、実際は国内で受注して台湾の代行業者に発送させた疑いがあるとみられています。
海外製の避妊薬をフリマサイトに出品して逮捕
2019年、海外製の緊急避妊薬を輸入した上、これをフリマサイトにおいて販売していた男性が医薬品医療機器等法違反の罪により逮捕されています。このケースでは、許可なく販売目的での海外薬品は禁止されているところ、この男性は許可なく海外医薬品を販売していました。
違法成分が検出された「痩せるコーヒー」の輸入販売業者に対する処分
2019年3月、福岡県は日本において承認されていない違法の医薬品成分である「シブトラミン」を含むインスタントコーヒーを「痩せるコーヒー」として輸入・販売していた業者の名前を公表するとともに、医薬品医療機器等法に基づき、同業者を久留米市に通報した上、厚生労働省に届出しました。
ここで問題とされた「シブトラミン」は欧米において食欲の抑制剤として肥満の治療薬として使用されているものの、頭痛、口の渇き、便秘、不眠などの副作用が確認されており、アメリカでは心不全や不整脈の患者に対しては生命の危険のあるものとして国内の流通を禁止していました。
未承認のフィラリア予防薬の広告により摘発
医薬品には人だけではなく動物の健康に関する薬も含まれます。
2018年7月、警視庁は犬や猫が感染する寄生虫病「フィラリア症」の未承認薬を広告したとして動物用医薬品の輸入代行業者を書類送検しました。
この業者は、この広告を見た不特定多数の消費者からの注文を受けて、当該フィラリア予防薬の販売業者から直接注文者に商品を発送するよう依頼しており、その意味では適法に個人輸入代行する仕組みを採用してはいたものの、広告規制に違反したために摘発されています。
このように代行業務自体は適法でも、未承認薬の広告は禁止されているため、広告規制違反により摘発されることはあるのです。
無許可でのED薬販売による摘発
無許可でのED薬販売による摘発事例は相当数あります。
2011年3月、警視庁はバイアグラの成分を含む海外医薬品を輸入代行と称して直接販売していた個人輸入代行会社の社長・社員を逮捕しました。
こうした輸入代行業を称した海外未承認薬の販売業者は近年非常に増加していますから、個人輸入代行を利用する場合には慎重に業者を選ぶようにしましょう。
まとめ
近時、インターネットの発達により海外の医薬品の情報を簡単に入手できるようになり、また、ネット上において海外医薬品の個人輸入代行の広告を目にする機会は増えるようになりました。
医薬品は健康の維持・増幅に寄与する反面副作用等のリスクを伴うため国内において正規に流通する医薬品は承認制度等により厳格に管理されています。
他方、海外医薬品はそのような国の管理はないため、その安全性および有効性について保証のないリスクを持っています。こうした海外医薬品については販売目的の輸入は承認・許可等を必要とします。
また、自己使用目的での個人輸入の場合には原則として地方厚生局から薬監証明を得れば輸入は可能であり、特定の範囲内の輸入の場合には例外的に薬管証明なしに輸入できます。
このように海外医薬品は個人輸入であれば適法にできるため、近年、個人輸入代行を称して実質は販売を行う違法業者の摘発事例が増加しています。
もちろん、適法に個人輸入代行を営む会社はありますから、海外医薬品の個人輸入代行を検討している方は慎重に業者を選ぶようにしましょう。
そして、輸入自体は適法でも、その使用による副作用などの健康被害のリスクについては事前にしっかりと対応方法を確認していくなどの準備をしましょう。
未承認薬の使用による健康被害については国の公的救済制度を利用することはできませんし、最寄の医師では対応できないこともあります。海外の未承認薬の使用を希望する場合には、こうした不都合をしっかりと理解した上、できれば医師に相談するなどして使用するようにしましょう。
海外医薬品の健康被害のリスク等については適宜厚生労働省のHP等において情報公開されていますから、必ず確認するようにしましょう。
コメント