『セルフメディケーション税制』が2017年1月から開始され、医療費控除がグッと身近なものになりました。
しかし、『セルフメディケーション税制』という言葉をよく耳にするけれど、どのような税制なのか、医薬品の購入が対象となるらしいけれど、どのような医薬品が対象なのか、また、実際に控除を受けるための確定申告時の手続き方法など、詳しいことはまだよくわからないという人もいらっしゃるのではないでしょうか?
ここでは、『セルフメディケーション税制』とはどのような税制なのか?対象となる医薬品はどのようなものか?確定申告時の方法、さらには、『セルフメディケーション税制』を利用する際の注意点についてもご紹介します。
セルフメディケーション税制とは?
ドラッグストアなどで自分で医薬品を買うと節税できる?!
『セルフメディケーション税制』とは、従来の医療費控除の特例として、2017年1月1日から始まった所得控除です。
2017年1月1日から2021年12月31日までの間に、対象となる医薬品を薬局や薬店で購入した年間(1月~12月)の合計金額が1万2,000円を超えた場合、超えた部分の金額が総所得金額から引かれ、総所得金額に課せられる所得税と住民税の節税になります。ただし、合計購入金額から1万2,000円を引いた金額が8万8,000円を超える場合は、総所得金額から引かれる金額は、一律8万8,000円となります。
<計算式>
対象商品の購入金額-保険金などで補てんされた金額-1万2,000円=セルフメディケーション税制控除額(最高8万8,000円)
そもそも『セルフメディケーション』とは?
『セルフメディケーション』とは、WHO(世界保健機構)において、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」(参照元:厚生労働省セルフメディケーション税制について)とされています。
すなわち、「自分の健康は、自分自身で管理していこう」というものです。軽度の腹痛や風邪などは薬局で自ら医薬品を購入し、手当てして行くことを勧めるものです。
『セルフメディケーション税制』のメリット
『セルフメディケーション税制』の施行により『セルフメディケーション』が拡がることによって、国にも国民にもメリットがあります。
国としては、国民の医療費を抑えることができます。国民としては、病院へ行く手間や費用が減り、税金額も減らすことができます。さらに、自分で症状に応じて医薬品を選ぶためには、薬の特徴や注意点などに関心を持つようになり、個人個人の健康管理への意識が高くなります。
セルフメディケーション税制と医療費控除の違い
セルフメディケーション税制の適用を受けた場合は、従来の医療費控除の適用は受けられません。どちらも条件を満たす場合は、お得な方を適用すればよいのですが、どちらを適用するか自己で選ぶためには、セルフメディケーション税制と医療費控除の違いについて理解しておくことは大切です。どのような違いがあるのかみてみましょう。
従来の医療費控除
医療費控除とは、病気やけがの治療で医療費が多くかかった年の医療費の負担を軽減するために、確定申告することで所得控除が受けられる制度です。
従来の医療費控除は、生計をひとつとする自分自身と家族の1年間(1月1日~12月31日)にかかった医療費の合計額(支払った合計金額から保険金で補てんされた金額を差し引いた額)が10万円(総所得金額が200万円未満の場合は、総所得金額の5%)を超える場合、その超える部分の金額が総所得金額から引かれます(引かれる金額は最高200万円まで)。
<計算式>
支払った医療費-保険金で補てんされた金額-10万円(総所得金額が200万円未満の場合は、総所得金額の5%)=医療費控除額(最高200万円)
従来の医療費控除の対象となるケースは、医師や歯科医師による診療費や治療費、治療目的に処方された医薬品などが控除の対象となります。病気の予防や健康増進のための医薬品の購入は、この場合医療費とされず、控除の対象とはなりません。
つまり、医療機関にかかるような病気になった後や出産後の医療費控除制度ですね。
セルフメディケーション税制
セルフメディケーション税制は、医師や歯科医師による診療費や治療費などは対象外で特定の成分を含むスイッチOTC医薬品のみを対象としています。さらに、健康の維持、増進のために健康検診や予防接種など一定の取り組みを行っている人が対象です。
つまり、セルフメディケーション税制は、健康の維持、増進、病気の予防に努めている人も医療費控除を利用できるようにし、医療費控除をより利用しやすいものにしています。
セルフメディケーション税制の対象商品
市販されているすべてのOTC医薬品がセルフメディケーション税制の対象となるわけではないので注意しましょう。
対象となる商品は、特定の成分を含むスイッチOTC医薬品です。その対象商品は、2017年12月28日時点で1,671品目(83成分)あります。
<OTC医薬品とは?>
OTC医薬品の「OTC」とは、Over The Counter(オーバーザカウンター)の略で、OTC医薬品は、カウンター越しに購入できる医薬品、つまり医師の処方箋が必要なく、薬局や薬店でアドバイスを受けながら、自分で選んで購入できる医薬品をいいます。OTC医薬品は、「市販薬」や「大衆薬」と呼ばれることもあります。
<スイッチOTC医薬品とは?>
スイッチOTC医薬品とは、医師の処方箋が必要な医療用医薬品として長期間医療機関で使用されており、有効性や安全性が認められて、市販薬としても販売されるようになった医薬品をいいます。
セルフメディケーション税制の対象商品の見分け方
セルフメディケーション税制の対象商品には、外装パッケージに共通の認識マークが表示されているものが増えていますので、購入の際に確認するとよいですね。ただし、識別マークの表示は義務ではないため、セルフメディケーション税制対象商品であっても識別マークの表示がない商品もあります。
対象商品かどうかわからない場合は、薬局の店員さんに確認しましょう。また、厚生労働省の「セルフメディケーション税制対象品目一覧」でも確認できます。
さらに、購入の際にもらうレシートが、セルフメディケーション税制の対象商品である旨がわかるように表示されている場合は、レシートで購入した医薬品か対象商品であるかどうかを確認することもできます。
セルフメディケーション税制の対象となる人の条件
対象となるスイッチOTC医薬品を購入しただけでセルフメディケーション税制を利用できるというわけではありません。
セルフメディケーション税制を利用するためには、申告対象の1年間(1月~12月)に厚生労働大臣が定める健康の維持、増進、病気の予防のために規定する健診や予防接種などを受けていることが必要です。
会社の定期健康診断、特定健康診査、健康診査、がん検診、人間ドック、予防接種のいずれかを受けた際の領収書または、結果通知表が申告の際に必要です。大切に保管しておきましょう。
セルフメディケーション税制の確定申告方法
セルフメディケーション税制を利用するには、確定申告を行う必要があります。確定申告の際に必要な3つの証明書類を準備しましょう。
申告に必要な証明書類3つ
セルフメディケーション税制を確定申告するには、次の3つの証明書類が必要です。
①セルフメディケーション税制の明細書
セルフメディケーション税制の明細書の様式は、国税庁ホームページからプリントアウトできます(URL:https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/yoshiki02/pdf/ref2.pdf)。
確定申告後5年間は対象OTC医薬品の購入の際のレシートまたは領収書の提出、提示を求められる場合がありますので、セルフメディケーション税制の明細書を作成した後もレシートや領収書は大切に保管しておきましょう。
また、2017年~2019年分までの確定申告では、経過措置として、明細書ではなく、対象となるOTC医薬品が表示された購入時のレシートまたは、領収書の添付でも申告可能です。
②健康診断や予防接種などを行った際の領収書や結果通知表
添付または、提示する領収書や結果通知表には、氏名、取り組みを行った年、取り組みに係る保険者や事業者、市町村名、または、医療機関や医師名の記載が必要です。
③給与所得の源泉徴収票(会社に勤めている場合)
確定申告の方法
セルフメディケーション税制の確定申告書を税務署に提出するのですが、その際にセルフメディケーション税制の明細書、または、対象となるOTC医薬品が表示された購入時のレシートまたは、領収書(経過措置のため、2017年~2019年分までの確定申告については、明細書でなくレシートまたは領収書の添付または、提示も可能となっています)と、健康診断などを受けたときの領収書または、結果通知表を添付または提示します。
国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」にて申告書等の作成ができ、申告はインターネット上で送ったり、プリントアウトをして郵送も可能です。案内に従い金額を入力すると自動計算で税額が計算されます。
領収書ではなくレシートでも大丈夫?
セルフメディケーション税制の申告をする際、セルフメディケーション税制の明細書の内容確認のために、税務署から対象商品の購入の際の証明書類の提示または、提出が求められる場合があります。また、2019年分までは、セルフメディケーション税制の明細書でなく、対象商品の購入を証明する書類の提出でも申告可能です。
この証明書類には、商品名、金額、対象商品である旨、販売店名、購入日の明記が必要です。
この条件が満たされていれば、領収書に限らず、レシートでも証明書類となります。
セルフメディケーション税制を利用するときの注意点7つ
セルフメディケーション税制、ぜひ利用したい制度ですが、利用の際に注意する点をまとめます。
①従来の医療費控除と同時に利用できない
セルフメディケーション税制を利用する場合には、従来の医療費控除は利用できないので注意が必要です。
自己負担の医療費が10万円を超え、特定のスイッチOTC医薬品の購入額が1万2,000円を超えた場合は、従来の医療控除とセルフメディケーション税制のどちらを利用するかは自身で選択することになります。この場合は、それぞれの下限を超えた金額(控除額)でお得な方を選択するとよいでしょう。
また、治療のために購入されたOTC医薬品は、従来の医療費控除の対象となるため、OTC医薬品の中には、従来の医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらに対しても対象商品となるものがあることを知っておくと、どちらを選択するかの参考となるでしょう。ただし、ひとつの世帯で、一人はセルフメディケーション税制をもう一人は従来の医療費控除を申告することは可能です。
②健康維持のための取り組みを行っていることが条件
セルフメディケーション税制を適用する場合は、健康を維持するために厚生労働大臣が規定する健診や予防接種、メタボ検診などの取り組みを行っている必要があります。申告の際に、取り組みの証明のため、領収書または、結果通知表の提出が必要ですので、大事に保管しておきましょう。
③健康診断等の費用は対象外
定期的に健康診断などを行っていることがセルフメディケーション税制の適用条件ですが、そのための健康診断等の費用は、控除の対象にはなりません。
④健康維持、増進のための一定の取り組みは、申告する人が行う必要がある
健康維持、増進のための健康診断や予防接種などの取り組みは、申告をする人が行う必要があります。申告する人の家族、たとえば、申告する人の子どもだけが予防接種を受けているというのは認められません。
⑤対象となるのは、特定の成分を含むスイッチOTC医薬品のみ
セルフメディケーション税制の対象となるのは、厚生労働省が特定した成分を含むスイッチOTC医薬品です。2017年12月28日時点で1,671品目(83成分)が対象商品となっています。すべてのOTC医薬品が対象というわけではないことを知っておきましょう。
特定の成分を含むスイッチOTC医薬品の購入費用のみが対象で、同じ年に医療機関を受診した際の診療費や治療費は対象とはなりません。
⑥対象商品を購入時の領収書やレシートは確定申告後5年間保管する
セルフメディケーション税制を確定申告後から5年間は、セルフメディケーション税制の明細書の内容確認のために、税務署から対象商品の表示された領収書やレシートの提示または提出を求められる場合がありますので、5年間はしっかり保存しておく必要があります。
⑦通信販売などの場合、購入者がプリントアウトした領収書は証明書類にならない
通信販売などで対象商品を購入した場合にインターネットを介して送られた領収書を購入者のプリンターで印刷したものは、証明書類としては認められないので注意が必要です。申告する場合、通信販売会社に証明書類の発行を依頼する必要があります。
まとめ
セルフメディケーション税制とは従来の医療費控除の特例として2017年1月から開始された制度です。
セルフメディケーション税制によって、自分の健康は自分で管理し、軽度の体調不良は自分で手当てすることを勧め、個人では、自己の健康意識を高め、医療機関へ行く手間や費用、税金を減らし、国にとっては、国民医療費の削減に繋がります。
OTC医薬品の購入金額が年間1万2.000円を超えるという場合は、医療費の自己負担額が10万円を超えるという場合よりハードルが低く、医療費控除がより利用しやすくなるのではないでしょうか?
セルフメディケーション税制の特徴を理解し、上手に活用して行きましょう。
コメント