事業者が商品や役務を消費者にアピールするために、「全商品30%OFF」「業界シェアNO1」など断定的表現や目立つ表現を用いて、「強調表示」がなされることがあります。
こうした強調表示は、その内容が無制約ないし無条件に妥当するという印象を消費者に与えるケースがあり、有利・優良誤認表示として法的問題が生じるリスクがあります。
このようなリスクを予防するため、強調表示とあわせて「打消し表示」をすることになります。
打消し表示とは?
打消し表示とは、強調表示と一体となって、強調表示によって生じた消費者の過大な期待や誤解を「打ち消す」ための表示です。
「ただし、一部の商品を除きます」「ただし、〇プラン加入者に限ります」「ただし、上記の効果を保障するものではありません」などの注意書きがその代表例です。
それぞれ例外型、別条件型、非保証型の打消し表示に当たります。打消し表示の分類としては他にも
・個人の体験談を記載する体験談型
・商品や役務が将来変更される可能性を留保する変更可能性型
・実験室など特殊な条件での理論値であることを示す試験条件型
・強調表示の内容に別途の料金が必要なことを付記する追加料金型
のようなタイプの打消し表示があります。
いずれのタイプの打消し表示であっても景表法上の規律は同一ですが、それぞれのタイプの特性に沿って、消費者にとって分かりやすい打消し表示をすることが必要です。
打消し表示で注意すべき内容
強調表示を見た消費者が通常は予見することができず、その購入に当たって重要な考慮要素となる事項がある場合には、打消し表示をしなければなりません。
景表法上こうした打消し表示の妥当性については、強調表示と打消し表示を含む表現全体を評価したときに、不当表示となっていないかどうかにより判断されます。
たとえ打消し表示がなされていても、打消し表示を消費者が見落としてしまうケースや、その内容が分かりづらいようなケースでは、消費者は強調表示の内容がそのまま妥当すると受け取ってしまうことになります。
そのため、このような場合には、強調表示と打消し表示は全体として、景表法上の有利・優良誤認表示に当たるとされてしまうおそれがあります。
打消し表示が妥当であるかどうかは、消費者の認識という観点から、その表示方法と表示内容の両方が適切である必要があるのです。
打消し表示の表示方法についての注意点
以下では、打消し表示をする上での表示方法の注意点について検討していきます。なお以下の注意点は、消費者庁の「実態調査報告書」(以下、単に「報告書」と書きます)を参照しています。
それぞれの注意点について、必ずしも景表法上の明文規定や判例があるわけではありませんが、「報告書」は主務官庁の解釈の基準を示すものであると言えます。
【全媒体に共通の注意点】
◯強調表示と打消し表示のバランス
強調表示と打消し表示は対として機能する表示であるため、打消し表示は強調表示と比較して適切な大きさでなければなりません。打消し表示のみが極端に小さいということがないようにしましょう。
◯強調表示と打消し表示の位置関係
その打消し表示が、対応する強調表示に対する打消し表示であることが認識できるように表示されている必要があります。打消し表示が強調表示からどれだけ離れているかという配置箇所のほかに、その打消し表示の大きさ等も総合的に勘案しなければなりません。
◯打消し表示と背景の区別
打消し表示と背景は明確に区別できる必要があります。背景の色と打消し表示の色が近い場合や、背景の模様と打消し表示の文字が見分けづらいような場合には、この要件を満たさないことになります。
【紙面での媒体のケース】
「報告書」での視線調査での研究結果として、紙面媒体では消費者は強調表示の近辺の情報を拾い読みする傾向があり、複数の情報を関連付けて理解することが困難であるという点が指摘されています。
そのため、以下の二つの点に特に注意する必要があります。
◯強調表示と打消し表示の近接性
打消し表示が強調表示と近接しているか、もしくはその表示箇所を示す表記が強調表示の近くにある必要があります。
◯強調表示と打消し表示の関連性
打消し表示がその強調表示に関連していることが認識できるよう、一体として表記する必要があります。
【動画での媒体のケース】
◯打消し表示の表示時間
打消し表示の表示時間が、消費者がその表示を読み終えることができる程度に長いものでなければなりません。この時間については、打消し表示そのものの分量のほか、その画面で表示されているほかの文字の分量をも含めて十分な長さとなっている必要があります。
◯別画面で表示するケースでの関連性
強調表示と別画面で打消し表示を行う場合には、それが強調表示と対応するものであることを認識できるような措置をとることが必要です。
◯音声等があるケースでの文字表記
強調表示を音声又は音声と文字で行ったり、画面内に人物などの注視の対象があるときに、打消し表示を文字のみで行うと消費者がその表示を認識しない可能性があります。
◯複数の打消し表示がなされる場合
動画では、情報は一方通行であるため、同一の動画内に複数の強調表示と打消し表示のペアがある場合には、消費者がその内容を忘れてしまう可能性があり、結果として不当表示となる恐れがあるため、とくに明確性が必要です。
◯視線調査を踏まえた注意点
動画では、次々と情報が流れ印象に残る情報以外は忘れられる傾向があります。また文字と音声と画像の複数の情報がある場合に、一部の文字が読み上げられなかったり、文字と音声の内容が異なっていたり、注視の対象となる画像等がある場合には、消費者は情報を読み落としたり、関連付けて理解することが困難になったりします。そのため打消し表示についても、音声で読み上げる等の工夫が求められています。
【WEBでの媒体のケース】
◯打消し表示までのスクロール量
ウェブ上の情報については、スクロールして情報を読み取る必要があるため、強調表示と打消し表示が1スクロール以上離れていないかなど、強調表示を読み取った消費者が打消し表示も読み取れるように配慮する必要があります。
打消し表示の表示内容の注意点
打消し表示の表示が適切になされて消費者が読み取ったとしても、その内容が不適切であれば強調表示を「打ち消す」効果を得ることができません。そのため表示の内容についても、下記の点に注意しなければなりません。
◯強調表示と打消し表示が矛盾していないか
打消し表示が強調表示に矛盾している場合には、消費者は強調表示が正しいものと考えてそれが無制約に妥当すると受け取ってしまう恐れがあります。例えば常用者のダイエット効果を表すような画像を載せながら、「本製品の効能を表すものではありません」との打消し表示があるようなケースです。
◯打消し表示の内容が消費者に理解できるか
打消し表示の内容について、打消し表示のタイプごとに特に注意すべき点は、下記のとおりです。
<別条件型>
複雑な料金体系の一部を強調する場合や初回購入での割引時の解約条件を打消し表示する場合に、その内容が理解しやすいかどうか
<追加料金型>
「すべて込み」などの強調表示をすると、打消し表示と矛盾する場合があります。
<試験条件型>
専門用語や業界用語を多用する場合や、製品そのものではなく製品の一部の成分についての効用を強調する場合に、打消し表示が正しく消費者に理解できるものである必要があります。
このように打消し表示をする場合には、媒体ごとの特性に沿った表示方法をするとともに、打消し表示のタイプ(例外型、別条件型など)に適した表示内容となるように、表示方法と表示内容の両方に注意しなければならないのです。
※参考
消費者庁「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」
打消し表示の文字の大きさ
打消し表示の文字の大きさは「報告書」においても、消費者が打消し表示を読み落としてしまったり、その内容を正しく理解できない大きな要因のひとつとして強調されています。そのため打消し表示をする上では、最も注意すべき点であるともいえます。
打消し表示の文字の大きさについては、それがなされる広告媒体が新聞やチラシのように手元にあるものなのか、それとも街のモニタ広告や鉄道のつり革広告のように距離があるものなかなど、広告媒体の特徴やそれが読まれる実際の状況に即して適切な大きさであることが望ましいと言えます。
文字の大きさが通常では読みにくい場合、違反と判断されるおそれがあります。
なおスマホでの打消し表示については、画面が小さいことから、この点についてもほかの表示との対比において目立つ大きさであることが必要です。
また、文字の大きさは8ポイントや10ポイントがいいのか、についてですが、具体的な文字の大きさは指定されていません。
スマホの打消し表示の注意点
スマホでの表記に関しては、スマホという媒体の特性から、注意がひきつけられる情報への拾い読みがされやすく、タップして情報を表示したりスクロールして表示されたりする情報が読み落とされやすいという問題点があり、とりわけ打消し表示をする上では注意が必要です。
◯アコーディオンパネルを用いるケース
画面上のラベルをタップすることで情報が現れるアコーディオンパネルを用いて打消し表示をする場合には、そのラベルをタップすることの重要性を消費者が理解できるように表示しなければ、打消し表示が読み落とされる可能性があります。
◯コンバージョンボタンを用いるケース
ハイパーリンク等のなされたコンバージョンボタンがある場合、そのコンバージョンボタンの下に打消し表示がなされているような場合には、消費者はその打消し表示に気づかないままコンバージョンボタンをタップして画面を離れてしまう恐れがあります。
なおスマホではスクロールして画面を読むことが一般的であり、上記のようにリンク等を用いて拾い読みがなされる傾向があるため、打消し表示は強調表示と近接して表示されることが望ましいとされています。
打消し表示の景表法違法事例・措置命令
以下、近年の打消し表示に関する公正取引委員会による景表法上の措置命令事例を紹介します。
◯ティーライフ株式会社に対する措置命令(令和3年3月23日)
「中年太り解決読本」と題して、体型が異なる2名の人物のイラストと共に「もう一度、あの頃のスリムな私に!」という表記をはじめとして、著しい痩身効果を得られるかのような強調表記をしていた事例です。
前記の表示について、例えば、「※適度な運動と食事制限を取り入れた結果であり実感されない方もいらっしゃいます。」等と打消し表示をしていましたが、これらの表示は、一般消費者が前記の表示から受ける本件商品の効果に関する認識を打ち消すものではないとされました。
◯Saluteサルーテ.Labラボ株式会社に対する課徴金納付命令(令和3年6月25日)
「検証結果で分かるイオニアカードの確かな効果」とウェブページに記載するなど、商品を身に着けた者にウイルス、菌等を寄せ付けない効果が得られるかのように示す表示をしていた事例です。
「本製品は空気の清浄効果を保証するものではありません。」との打消し表示がありましたが、これは一般消費者が前記の表示から受ける本件商品の効果に関する認識を打ち消すものではないとされました。
◯株式会社あすなろわかさに対する措置命令(令和2年3月17日)
商品の容器包装及び黒髪の人物の写真と共に,「黒々艶やかな髪本来の美しさを取り戻す(中略)あなたの髪本来の、若々しくて美しい黒髪を取り戻します。市販の白髪染めや美容院で染めるのが面倒な方にオススメです。」等と表示していた事例です。
「※お客様個人の感想であり実感には個人差があります。」と表示していましたが、一般消費者が前記の表示から受ける本件商品の効果に関する認識を打ち消すものではないとされました。
打消し表示で「個人の感想です」は認められる?
体験談を表記した場合に「個人の感想です」と打消し表示をすることは、認められるのでしょうか。
この点に関して「報告書」は、体験談を見た消費者は「『大体の人』が効果、性能を得られる」という認識を抱き、「個人の感想です」等の表記をしても、これを打ち消すことにはならないという趣旨の見解を示しています。
また効果や効能を喧伝するという広告物の特性からして、「効果、効能を表すものではありません」等との打消し表示は、強調表示と矛盾するケースに当たるとされています。
なお体験談を用いる場合には、事業者が行った調査での被験者の数や属性、体験談と同等の効果を得られた者の割合、体験談と同等の効果を得られなかった者の割合を明瞭に併記することが望ましいとされ、その効果を得るために食事療法などの特定の条件がある場合には、そのことを明記するべきであるともされています。
結論として、単に「個人の感想です」と付記するにとどまる打消し表示は、不当表示とされるおそれが大きいと言えます。
まとめ
提供する商品や役務の広告が事業のための重要なセールス活動である中で、強調表示をすること、そしてそれへの打消し表示をすることは、事業をする者にとって避けては通れない法的な関門のひとつです。
近年は上記の「報告書」のように心理学的な知見を取り入れた実証的な調査もなされており、また措置事例の公開もなされていることから、十分な情報収集によりその対応をしていくことが重要と言えます。
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