商品販売や役務提供などを目的として商売を行うとき、その提供する商品や役務の内容について広告をすることが必須です。
広告表示に関しては、消費者保護などを目的として法律による規制があります。
広告表示規制の代表的な法律が「不当景品類及び不当表示防止法」、いわゆる「景品表示法」です。
景品表示法は、消費者を誤認させるような類型の広告表示を規制していますが、その中に「二重価格表示」に対する規制があります。
二重価格表示は消費者の誘引に効果的なので、導入している業者も多いですが、間違った表示方法をすると「不当な二重価格表示」として景品表示法による罰則を受ける可能性もありますので、正しい知識を持つことが大切です。
今回は景品表示法による「二重価格表示」に関する規制について解説します。
景品表示法の目的
今回解説する二重価格表示に関するルールは景品表示法による規制です。
そこでまず、この景品表示法がどのような法律なのかを簡単に確認しておきましょう。
景品表示法は、正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」と言います。
消費者は、より良いもの、お得なものを求めるものですが、その判断は基本的に商品広告によってなされます。
商品や提供役務の広告において、実際の商品より良いもののように見せかけたり、有利だと誤認させるような表示が行われると、消費者が誤認したまま実際には質の良くない商品を購入するなどして不利益を被る危険性があります。
そこで景品表示法は、商品やサービスについて、品質や内容、価格等についての虚偽表示を禁止したり誤認を与える表示を規制することで、消費者保護を図ることを目的としています。
今回解説する二重価格表示に関する規制も同じく消費者保護の目的でもうけられたものです。
景品表示法で規制される広告表示の例としては、実際よりも著しく良い商品であると見せかけるような優良誤認表示や実際より著しく有利な条件での取引だと誤認させるような有利誤認表示などがあります。
二重価格表示とは
二重価格表示とは具体的にどのようなものなのかを確認しましょう。
二重価格表示は、商品や役務に関する実際の販売価格とは別に、比較対照すべき参考価格を同時に表示することです。
この参考価格のことを「比較対照価格」といいます。
たとえば「当店通常価格は3000円のところを1780円」などと表示する場合は二重価格表示に該当します。
二重価格表示を用いた広告は、消費者を誘引するのに非常に効果的です。
単純に1780円で売られているよりも「通常は3000円」という情報が入ることによって、消費者にとって「お得感」が増し、購買意欲が向上するからです。
しかし、このように効果的である分、その表示内容が不当な場合の消費者に与える損害も大きいのがこの二重価格表示の特徴です。
たとえば先に述べた例であっても、本当にその商品の通常価格が3000円で、実際にそれに見合った商品価値のあるものであれば1780円はお得だと感じる消費者の判断は間違っていませんし、1780円で商品を購入しても問題はありません。
しかし、「通常価格3000円」というのがそもそも虚偽で、その商品には実際には900円程度の価値しかないなどということになれば、消費者は間違った情報をつかまされて間違った判断に誘導され、価値のない商品を買わされた状態になって不当な損害を被ってしまいます。
このような問題をはらんでいることから、二重価格表示は消費者に損害を与えないよう規制の必要性が高い類型の広告表示方法と言えるのです。
そこで、景品表示法を根拠として、不当な二重価格表示が禁止・規制されています。
不当な二重価格に該当する基準・ルール
具体的にどのような場合に「不当な二重価格」に該当し、景品表示法違反となるのかについてその基準・ルールを確認しておきましょう。
不当な二重価格表示にはいくつかの類型がありますので、順番に確認します。
1.比較対照価格として同一でない商品の価格を用いる場合
消費者が商品を購入する際に比較対照価格の記載があると、消費者は通常その対照商品と同じ商品と比較対照しているものと考えます。
購入商品と同一ではない商品の価格を参考価格として二重価格表示されていると、消費者が誤認してしまい、正確な判断が出来ません。
よって同一商品ではない商品の価格を比較対照価格として表示することは不当な二重価格に該当するおそれが高いです。
たとえば、「新品」とは言い切れない「傷物」などの商品を取り扱っているにもかかわらず、比較対照価格として問題のない新品の商品価格を表示し、これと比較して販売価格がお得であるかのような表示をすると、不当な二重価格表示とみなされるおそれが高いです。
そもそも販売品は傷物であり、比較対照価格の商品は新品なので、この2つの商品が同一とは言えないからです。
2.比較対照価格として過去の販売価格を使う二重価格表示
過去の販売価格を比較対照価格として用いる場合にも二重価格表示のルールがあります。
過去の販売価格との比較対照がなされてセール販売などが行われている場合、消費者は通常、販売されている商品と同じ商品が、その比較対照価格にてセール前の相当期間販売され続けていたと考えます。
そして、現在のセール期間中は値下げ分だけ安くなっているのでお得だと考えて購入するものです。
ところが、実際には過去にそのような販売実績がなかったということになれば、消費者が誤認してしまい、損害を被ることになります。
そこで二重価格表示規制として、過去の当該商品の販売期間についてルールを定めています。たとえば、販売実績の全くない商品や非常に短期間の販売実績しかない商品の価格を「当店通常価格」等と表示することは許されません。
過去の販売価格について、実際とは異なる販売期間を記載して比較対照価格とすることも認められません。
過去の販売価格を比較対照価格として用いる場合の具体的な規制においては、現在の価格設定時から遡って8週間の期間の過去の販売価格が問題になります。
当該比較対照価格が直近8週間の期間の過半を占めており、通算して2週間以上の期間表示されていた実績があり、その比較対照価格で販売されていた最終の日から2週間が経過していない場合には、その比較対照価格を使って二重価格表示できます。
商品が売り出されてから8週間の期間が経過していない商品の場合は、その商品の販売期間中の過半を占めており、通算して2週間以上の期間表示されていた実績があり、その比較対照価格で販売されていた最終日から数えて2週間が経過していない場合に、その過去の販売価格を比較対照価格とした二重価格表示が許されます。
このように、過去の販売価格を比較対照とする類型の二重価格表示の規制においては、8週間という期間が重視されますので、8週間ルールとも呼ばれています。
3.比較対照価格として将来の販売価格を用いる二重価格表示
ある商品の販売を初めて行う際など、将来の値上げなどを示唆して今買った方がお得だと認識させる方法でセール販売を行うことがあります。
この場合、将来の価格を比較対照価格として二重価格表示が行われますが、この将来の値上げが虚偽であると、消費者は的確な判断が出来ません。
そこで、将来の価格を比較対照価格とする場合の二重価格表示は、比較対照価格として表示された将来の販売価格に根拠が充分ある場合にのみ認められます。
比較対照価格が、実際には予定されていない価格であったり、ごく短期間のみその比較対照価格で販売するだけの場合などは、消費者を誤認させるおそれが高いものとして許されません。
4.希望小売価格を比較対照価格として用いる場合の二重価格表示
希望小売価格を比較対照価格として用いる場合にも二重価格規制が及びます。
具体的には「希望小売価格」として、製造業者等により設定・公表されているとはいえない価格を比較対照価格として表示すると、消費者に「販売価格は安くてお得である」と誤認されるおそれが高いので不当表示に該当します。
同じように、希望小売価格よりも高い価格を「希望小売価格」と表示したり、希望小売価格の設定がそもそもないのに「希望小売価格」として比較表示することは許されません。
5.比較対照価格として競争事業者の販売価格を用いる二重価格表示
同業他社の商品価格を比較対照価格として用いる場合も注意が必要です。
実際に、同業他社において消費者が同じ商品を購入できる最近の販売価格とはいえない価格を比較対照価格にしてしまうと、不当表示となる可能性があります。
最近の市価より高い価格を比較対照価格とする場合、相当数の同業他社の実際の販売価格をきちんと正確に調査した結果でない限りは二重価格表示として認められません。
6.比較対照価格として他の顧客向けの販売価格を用いる二重価格表示
他の顧客向けの価格を比較対照表示とする場合にも二重価格表示の規制が及びます。
実際の販売価格と比較対照価格のそれぞれの販売価格が適用される顧客の条件等について、虚偽の表示をしたりあいまいな表示をすることは不当な二重価格表示となりやすいです。
たとえば会員制の販売方法を採用するケースで、非会員を対照とした価格を比較対照価格に用いる場合、実際には極めて簡単に会員になることが出来るので、非会員の価格で購入する人がほとんどいない場合などは、そのような非会員価格を比較対照価格として用いると不当な二重価格表示になりやすいです。
違反した場合の罰則・罰金
景品表示法には罰則が設けられていますので、二重価格表示規制ルールに違反した場合にも罰則が科される可能性があります。
二重価格規制ルールに対する違反行為があると考えられる業者に対しては、内閣総理大臣により報告義務や資料提出義務が課せられます。
これらの報告義務や提出義務に従わなかったり虚偽の報告をした場合には、1年以下の懲役又は300万円以下の罰金刑が科されます。
実際に二重価格表示規制に違反した場合には、内閣総理大臣から措置命令が出されますが、その措置命令に違反した場合は2年以下の懲役または300万円以下の罰金刑が科されます。このとき、法人や団体には3億円以下の罰金刑が科される可能性があります。
また、2016年4月1日から課徴金制度が始まり、景品表示法に違反した場合は、売上の3%を課徴金として支払う必要があります。
まとめ
今回は、商品販売の価格表示に関するルールである二重価格表示の規制ルールについて解説しました。
商品価格の二重表示は販売促進に非常に有効ですが、消費者を誤認させるおそれが高く、厳しく細かい規制を受けます。
違反すると景品表示法により罰則も科されます。今回の記事を参考にして、法令を遵守しながら商品を効果的に販売出来るように務めましょう。
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