商品やサービスを提供するビジネスを展開している場合、その商品やサービスの内容を広告する必要があります。ただ、広告を出す際は、どのような内容の広告も許されるわけではありません。
広告内容については、景品表示法という法律によって規制を受けます。
たとえば、虚偽の内容を表示して商品を宣伝すると、違法になります。景品表示法には、優良誤認表示という禁止類系があります。
最近では、ソーシャルゲームで人気のガチャも、優良誤認表示であり、景品表示法違反になるのではないかということが問題になり、話題になりました。このとき問題になった「ガチャの確率問題」とは、具体的にどのような問題なのでしょうか。
今回は、ソーシャルゲームのガチャの確率問題をはじめとして、景品表示法違反の優良誤認表示の事例を確認してみましょう。
優良誤認表示とは
景品表示法の目的
商品やサービスを広告する場合には、景品表示法という法律によって広告内容に規制を受けます。
景品表示法は、その正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」と言います。景品表示法は、広告の内容を適性に保つことによって、消費者の利益を守ることを目的にしている法律です。
もしどのような広告も許される世の中で、虚偽の内容の広告が蔓延すると、その内容を信じて商品やサービスを購入した消費者が被害を受けることになります。景品表示法はこのような被害を防止することを目的としているのです。
景品表示法で禁止される優良誤認表示
景品表示法が禁止している広告表示の種類の1つに、優良誤認表示があります。
優良誤認表示とは、実際の商品やサービスの内容、品質よりも著しく優れたもののように広告表示することです。
たとえば、実際には外国産の牛肉であるにもかかわらず、「黒毛和牛」などと表示して牛肉を販売した場合には、優良誤認表示となって景品表示法違反になります。
このような優良誤認表示がなされると、その内容を信じてその牛肉を買った消費者が、実際には広告内容よりも品質の劣った牛肉を高値で買わされることになって不利益を被ります。
そこで、景品表示法では優良誤認表示を禁止して、消費者の利益を守っています。
優良誤認表示があるとどうなる?
優良誤認表示の広告をしていると、どのような処分をされるのでしょうか。
優良誤認表示があると疑われる場合、国の消費者庁が、問題になっている対象広告を出している会社に対して、その広告内容が合理的であることを示す資料や根拠の提出を求めます。
これに応じて、対象会社が適切に広告内容の合理性を証明出来ない場合には、その広告は優良誤認表示であるとみなされて、広告を出していた会社は処罰を受けることになります。
具体的には、措置命令といって、再発防止などの措置をとらされることがありますし、場合によっては刑事罰が科される可能性もあります。
また、課徴金制度も導入が決まっており、今後景品表示法違反の広告を出して措置命令を受けた場合には、原則として課徴金の支払いが必要になってくるので、注意が必要です。
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優良誤認表示の事例
景品表示法の目的と、景品表示法が禁止する優良誤認表示の類型については上記の通りですが、具体的に、どのような企業がどのような広告を出したことにより、優良誤認表示とみなされて処分されているのでしょうか。
人気のソーシャルゲームのガチャでも、優良誤認表示が問題になっています。このことをガチャの確率問題といいますが、ガチャのどのような点が優良誤認表示に該当すると考えられるかも知っておきたいところです。
以下では、ガチャの確率問題を始めとして、優良誤認表示の具体的な事例を確認していきましょう。
1.ソーシャルゲームのガチャ確率問題
ソーシャルゲームをしている人数も多い分、大きな話題となっており、今後規制が厳しくなるなどの大きな動きがあるかもしれません。
ソーシャルゲームの現状
ソーシャルゲームは今とても人気があり、多くの人が利用しています。ソーシャルゲーム内に「ガチャ」というシステムがあります。これは、ゲーム内で利用出来るアイテムなどが当たるゲームです。
このガチャが当たる確率について、景品表示法違反(優良誤認表示)ではないかという点が問題になっていたことがありました。この問題のことを、ガチャの確率問題と呼んでいます。
問題となっている点
人気のソーシャルゲームで景品表示法違反が問題になったガチャの確率問題とは、いったいどのようなことなのでしょうか。
多くのソーシャルゲーム内に、「ガチャ」というシステムがあります。ガチャとは、確率によってゲーム内で利用出来るアイテムなどが当たるサービスで、利用には料金がかかることがあります。
ガチャには通常のガチャとレアアイテム用のガチャがあることが多く、通常のガチャよりレアアイテム用のガチャの方が、珍しいアイテムが当たる確率が高いです。よって、レアアイテムがほしい人は、お金を出してもレアアイテム用のガチャを利用します。
ところが、レアアイテム用(レアアイテムが当たりやすい)のガチャであるかのような表示をしていたにもかかわらず、実際に当たるアイテムはレアアイテムではなく、通常のアイテムであることがほとんどであるということが指摘されて、問題になった事例があったのです。
このことは、「通常よりもレアアイテムが当たる確率が高い」という広告内容と、実際にレアアイテムが当たる確率が異なるので景品表示法違反になるのではないかという点が問題になりました。
これが、ソーシャルゲームのガチャの確率問題です。ガチャのシステム自体はとても人気があったので、このガチャの確率問題によってガチャそのものが規制(もしくは自主規制)によって無くなるのではないかという憶測を呼び、ガチャの確率問題は大きな話題になりました。
景品表示法の解説
ソーシャルゲームのガチャの確率問題は、景品表示法の中でも優良誤認表示の問題になります。
上記で説明したとおり、優良誤認表示とは、商品やサービスの内容を実際よりも著しく優良なものにみせかける広告表示のことです。
ガチャの確率問題が起こる場面では、実際に当たるのは通常のアイテムがほとんどなのに、その事実とは異なりレアアイテムが当たる確率が高いかのように広告をしていたので、景品表示法の中でも優良誤認表示に該当する可能性があります。
また、ガチャの確率問題は、景品表示法違反の中でもおとり表示に該当する可能性もあります。おとり表示とは、実際にはその商品やサービスを購入することが出来ないのに、あたかもそれを購入出来るかのような広告表示をすることです。
実際にはレアアイテムを購入利用出来ないのに、ガチャでレアアイテムを購入できるかのように見える広告表示をしていたので、このおとり表示に該当するおそれもあるのです。
ただ、現時点において、実際にガチャが景品表示法違反と認定されたり、ガチャを実施している企業が具体的に措置命令などの処分を受けたなどの事実はなく、ガチャが規制されている事情もありません。
ただ、それはガチャの確率問題にまったく景品表示法上の問題がないという意味ではなく、同じようなことが今後も起こった場合には、景品表示法違反を問われるおそれもあるので、注意が必要です。
2.お茶の水女子アカデミーに対する景品表示法に基づく措置命令について
次に、お茶の水女子アカデミーによる優良誤認表示違反の事例を見てみましょう。
企業の名称及び事業内容
企業名はお茶の水女子アカデミーです。大学受験などのための予備校の経営などを行っています。
企業の違反内容
お茶の水アカデミーは、平成24年に景品表示法違反行為があったことが発表されました。
同社の違反内容は、以下のとおりです。
お茶の水アカデミーは、予備校生を集めるための広告として、自社の実績を表示する際に、平成22年、23年度の合格者として、
・平成22、23年度 看護大学等 入学試験合格者 延べ267名
・平成22、23年度 医療系大学等 入学試験合格者 延べ38名
と表示していました。
ところが実際には、同社の予備校生の実績は、
・平成22、23年度の看護大学等の合格実績については、入学試験合格者が延べ97名
・平成22、23年度の医療系大学等の合格実績については、入学試験合格者が延べ0名
でした。
そこで、実際の合格者数と広告表示の内容に乖離があったことが、お茶の水アカデミーの景品表示法違反行為の内容となります。
違反内容となる景品表示法の該当法律の解説
お茶の水アカデミーが、実際よりも合格者数を水増しして広告したことは、景品表示法の中でも優良誤認表示に該当します。
実際には合格者数は多くないにもかかわらず、それより多くの合格者数が記載してあると、消費者は「ここの予備校に通うと、希望する大学や専門学校に合格できる可能性が高くなる」と誤信する可能性があります。
このことは、予備校が、その実績について実際よりも著しく優良に見せかける行為と言え、優良誤認表示となります。
お茶の水アカデミーは、この景品表示法違反の行為によって、消費者庁から措置命令を受けました。
3.株式会社東祥に対する景品表示法に基づく措置命令について
次に、平成23年に発表された株式会社東洋に対する景品表示法違反行為を見てみましょう。
企業の名称や事業内容
問題となった企業は株式会社東洋です。この会社は、スポーツクラブなどの事業を展開しています。
企業の違反内容
株式会社東洋は、自社が経営するスポーツクラブの13店舗についての新聞折り込みチラシやウェブサイトなどで、施設内に設置された浴場について
「天然鉱石ラジウム温泉<露天風呂>」、「ヘルストン温泉<露天風呂>」
などと広告表示していました。
ところが、実際には各スポーツクラブの店舗の浴場は、温泉法に規定されている許可を受けておらず、店舗内の浴場の浴槽のお湯は、ただの水道水や井戸水、工業用水を温めただけのものでした。
このように、実際とは異なる内容の広告表示をしたことが、同社の違反内容です。
違反内容となる景品表示法の該当法律の解説
株式会社東洋が、スポーツクラブ内の浴場のお湯の質について虚偽の広告表示をしたことは、景品表示法の中でも優良誤認表示に該当します。
実際に使用している水は水道水や井戸水、工業用水などであるにもかかわらず、それよりも質の良い温泉のお湯であるかのような表示をしているので、実際よりも著しく優良な内容の広告表示をしていることになります。
株式会社東洋は、この景品表示法違反の行為によって、消費者庁から措置命令を受けました。
4.株式会社村田園
平成28年3月10日、株式会社村田園に対する景品表示法違反による措置命令があったことが発表されました。具体的にどのような違反行為があったのかを見てみましょう。
企業の名称及び事業内容
問題となった会社は株式会社村田園です。同社は、お茶の販売などを事業内容としています。
企業の違反行為の内容
株式会社村田園は、平成21年7月ころから平成27年12月までの間、販売するお茶の容器の包装において、あたかも、それらのお茶の原材料が日本産であるかのように広告表示していました。
たとえばパッケージ上に「阿蘇の大地の恵み」と記載したり、日本の山里を想起させるような風景のイラストを記載したり、「どくだみ・柿の葉・とうきび・はと麦・甜てん茶・くま笹・あまちゃづる・はぶ茶 甘か ん 草 ・大豆・田舎麦・桑の葉・枸杞くこ ・ウーロン茎・びわの葉・浜茶」などと記載したりしました。
ところが、実際には原材料のうち、「大麦」の一部と、「どくだみ」、「かりん」以外のほとんどの原材料は国産ではなく外国産でした。
このように、お茶の原料の産地について虚偽の内容を記載したことが、同社の違反内容です。
違反内容となる景品表示法違反の該当法律の内容
株式会社村田園が、実際には外国産の原材料を使っているにもかかわらず、あたかも国産であるかのような広告表示をしたことは、景品表示法の中でも優良誤認表示になります。
実際には国産のお茶葉より品質の劣る外国産の原材料を使用しているにもかかわらず、国産であるかのように見せかけて、商品の内容を実際よりも優良なものであると見せかけているからです。
この優良誤認表示違反の行為によって、株式会社村田園は、措置命令を受けました。
具体的には、違反とみなされた対象商品の内容について、「実際よりも著しく優良であると表示するもので、景品表示法に違反していました」ということを一般の消費者に周知徹底させることが必要になりました。
さらに、再発防止策を策定して、同社の役員と従業員に周知徹底すること、さらに今後は、同じような表示をしないことも命令されました。
まとめ
以上、今回は景品表示法違反の中でも優良誤認表示の問題と具体的な事例をご紹介しました。
景品表示法では、消費者の利益を守るために、虚偽の広告内容などが規制されます。優良誤認表示とは、景品表示法違反の中でも、商品やサービスの内容を実際よりも著しく優良であると見せかける内容の広告表示のことです。
人気のソーシャルゲームのガチャにおいても、レアアイテム専用ガチャの確率問題などで景品表示法の優良誤認表示に該当するのではないかということが問題になっています。
そのほかにも、大手予備校やスポーツクラブ、お茶販売の会社なども優良誤認表示違反に問われています。
優良誤認表示で措置命令を受けると、今後は課徴金による制裁を受ける可能性などもあります。
商品やサービスを広告する際には、くれぐれも実際より著しく優良に見せかける優良誤認表示の行為をしないように、慎重に宣伝するようにしましょう。
コメント
コメント一覧 (2件)
文中で剥離(ハクリ)という表現が出てますが
これ合ってますか?
乖離(カイリ)じゃないですか?
ご指摘ありがとうございます。
修正させていただきました。