消費者庁が出す「措置命令」の意味とは?[景品表示法]

現代では、インターネットの普及により広告のあり方も多様となり、企業がより一般消費者にアプローチしやすい環境が整っています。

他方で、そのような広告のなかには、商品やサービスの品質を正確に表していなかったり、割引率や手数料などが異常にオトクであるように見せかけていたり、といったアンフェアな手法で、一般消費者を欺くようなものがあるのも事実です。

そのようなアンフェアな表示や広告を取り締まるのは、消費者庁の役割です。消費者庁は、一般からの情報提供や職権に基づいて調査を行い、アンフェアな表示などを行った企業に対して、景品表示法の規定に基づき「措置命令」を出すこととなっています。

それでは、景品表示法が果たす役割と、措置命令の意味について、一緒に考えていきましょう。

目次

景表法は何のためにあるのか

まず、景品表示法(以下、「景表法」といいます)は、正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」といいます。その名のとおり、商品やサービスに過大な「景品」をつけたり、実際よりも品質や価格が優良であるような「表示」をしたりといった「不当」な方法で一般の消費者を釣ったり騙したりすることを「防止」し、消費者保護につなげよう、というのがこの法律の制度趣旨です。

措置命令とは

では、商品やサービスを提供している会社が、そのような不当な方法によって消費者を釣り出している場合、その会社はどのような法的責任を負うのでしょうか。景表法においては、第6条前段が次のように定めています。

第6条(措置命令)
内閣総理大臣は、第3条の規定による制限若しくは禁止又は第4条第1項の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。(以下略)

1つの文章が長いですが、「内閣総理大臣は、景表法違反の行為をする事業者に対し、行為の差止めや再発防止等を命ずることができる」というのがこの条文のエッセンスとなります。このような内閣総理大臣の命令のことを「措置命令」といいます。

この措置命令は、後でも取り上げますが、消費者庁のウェブサイトに企業名つきで公表されており、細かい事実関係や違法行為の態様などもあわせて掲載されています。大企業であれば、措置命令を受けたことが全国ニュースで報道されることもあります。その意味では、措置命令によって不名誉な事実が広まり、企業の信用を大きく落とす原因となりえるでしょう。

措置命令の対象となる法違反の行為とは

さて、第6条が定める措置命令が発令されるのは、第3条または第4条第1項の規定に違反する行為があるときとされています。それぞれの条文から、措置命令の対象となる行為を見てみましょう。まず、第3条は次のような規定となっています。

第3条(景品類の制限及び禁止)
内閣総理大臣は、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を確保するため必要があると認めるときは、景品類の価額の最高額若しくは総額、種類若しくは提供の方法その他景品類の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる。

第3条は、冒頭で述べた不正な行為のうち「不当景品」に関する規定です。具体的には、景品の提供について、最高額や総額、種類などを制限したり禁止したりできることとなっています。

高額な景品に釣られて商品やサービスを購入してしまったが、冷静に考えると、その商品やサービスが値段に見合わない粗悪なものだった、という経験が皆さんにもあるかもしれません。高額な景品を制限することで、個別の消費者が不利益を被ることを防止できます。さらに、業界各社が景品の豪華さで安易に競争して、市場全体の品質が低下したり、消費者が正しい選択をできなくなったり、といった事態をも防止することにつながります。

そして、第4条第1項は次のような規定となっています。

第4条(不当な表示の禁止)
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

三 前2号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの

条文の漢数字は号をあらわしますが、第4条では「不当表示」を3種類に分けて規定しているのがわかります。このうち特に、1号を「優良誤認表示」、2号を「有利誤認表示」とそれぞれ呼んでいます。

1号の「優良誤認表示」とは、商品やサービスの品質などを、実物の商品や同業他社の商品と比べてとても良いと思わせる表示のことです。本当はそうではないのに「手ごね」「無添加」などと銘打つことだけでなく、科学的根拠なしに「絶対やせる!」などという効能をうたうことも優良誤認表示にあたります。

そして、2号の「有利誤認表示」とは、商品やサービスの価格などの取引条件を、実際の条件や同業他社の条件と比べてとても有利だと思わせる表示のことです。「当店販売価格9000円のところ、なんと3600円!」といいつつ実はもとからその品物を3600円で売っていたとか、「分割手数料無料は当社だけ!」といいつつ実は同業他社もやっているとか、さもオトクであるかのように見せかけることが有利誤認表示にあたります。

その他、1号・2号にはあたらないけれども、消費者を誤解させる次のような表示が、公正取引委員会の告示によって禁じられています。

公正取引委員会の告示6つ

①無果汁の清涼飲料水等についての表示

たとえば、果汁5パーセント未満なのにそのパーセンテージを記載しないで、その果物の名前や絵をパッケージに載せることを指します。

②商品の原産国に関する不当な表示

たとえば、商品が日本製なのに、イタリアの国旗等をつけて、まるでイタリア製のように思わせることを指します。

③消費者信用の融資費用に関する不当な表示

消費者金融が、たとえば、利息を月利で表示したり、手数料や一部の利息を除いたりして、実質年率を明確に表示しないことを指します。

④不動産のおとり広告に関する表示

たとえば、架空の物件や成約済みの物件など、取引しようがない好条件の不動産を広告に載せることを指します。

⑤おとり広告に関する表示

たとえば、架空の商品やサービスを広告に載せたり、実際には数個しか販売予定がないのに数量限定であることを表示しなかったりすることを指します。

⑥有料老人ホームに関する不当な表示

たとえば、費用の内訳の表示が不明確であったり、入居者の状態によっては入居や介護サービスが終身受けられない可能性があることを表示しなかったり、介護職員等の人数を明確に表示しなかったりすることを指します。

消費者庁の措置命令が出された事例

教師

2013年ころに、レストラン等のメニューの虚偽表示が社会問題化したのは記憶に新しいところですが、近年も、消費者庁から「不当表示」で措置命令も「不当表示」が出ています。以下でいくつか事例を紹介します。

優良誤認表示の事例

①株式会社ダスキン

(措置命令平27・12・11消表対1527)
ダスキンが行う窓用フィルムの施工サービスについて、遮熱・UVカットタイプのフィルムを施行することで「室温の上昇を抑える! 最大-5.4℃空調効率アップ!」などと表示したダイレクトメール・チラシを、関東圏でおよそ160万枚ほど配布していました。しかし、同社に対して消費者庁が根拠資料の提出を求めたところ、提出された資料からは表示の裏付けとなる合理的な根拠が導けませんでした。

そのため、消費者庁は、この表示を「優良誤認表示」にあたると判断し、同社に対して、この表示が景表法違反であったことを一般消費者に周知するとともに、再発防止に必要な措置を講じ、今後は同様の表示を行わないよう命じました。

②株式会社ロイヤルパークホテルズアンドリゾーツ

(措置命令平27・2・4消表対149)
ロイヤルパークホテルとホテル内のレストランで提供された、のりを使用した7種類の料理について、例えば「黒毛和牛ヒレ肉の低温ロースト 磯の香りをのせた岩のりのブールコンポ-ゼを添えて」などというように、あたかも自生の岩のりを使用しているかのような表示をしていましたが、実際には養殖ののりを使用していました。

また、別の料理について、「ヴァン・ルージュで煮込んだ黒毛和牛頬肉の宝石箱見立て 野菜のロンドと共に」と表示していましたが、実際には、農水省が定める和牛の定義に該当しない牛の頬肉を使用していました。

そのため、消費者庁は、これらの表示を「優良誤認表示」にあたると判断し、同社に対して、これらの表示が景表法違反であったことを一般消費者に周知するとともに、再発防止に必要な措置を講じ、今後は同様の表示を行わないよう命じました。

有利誤認表示の事例

①弁護士法人アディーレ法律事務所

(措置命令平28・2・16消表対189)
アディーレが行う債務整理・過払金返還請求の相談について、同法人のウェブサイトに、「過払い金消滅防止キャンペーン」、「笑顔満点キャンペーン」、「返金保証キャンペーン」をあたかも1か月の期間限定で実施するかのような表示をしていました。しかし、これらのキャンペーンは実際には平成22年10月から平成27年8月まで継続して行われていたものでした。

そのため、消費者庁は、この表示を「有利誤認表示」にあたると判断し、同法人に対して、今後は同様の表示を行わないよう命じました。

②株式会社ガリバーインターナショナル

(措置命令平23・3・28消表対197)
ガリバーが提供している「楽のりプラン」というローンについて、テレビCMの映像と音声で「月々1900円からクルマが買える」旨の表示をしていましたが、実際の支払いでは月々1900円のほかに頭金とボーナス払いが必要なものでした。

また、他にも、「スペシャルプラン」「あんしん10年保証」について、すべての中古車が対象となる旨の表示をしていましたが、実際には限られた車種しか対象とならないものでした。

そのため、消費者庁は、これらの表示を「有利誤認表示」にあたると判断し、同社に対して、再発防止に必要な措置を講じ、今後は同様の表示を行わないよう命じました。

課徴金制度の導入

2016年4月に改正法が施行されました。先ほど述べた、2013年ころの食品虚偽表示問題を受けて、「不当表示」についてのみ、措置命令だけでなく「課徴金の納付命令」が出せるようになりました。

企業に不当表示とみられる表示があった際、消費者庁は企業に裏付け資料を提出するよう命ずることができます。しかし、提出された資料から合理的な根拠を導き出せない場合には、その表示を不当表示と推定して、対象商品やサービスの売上額の3パーセントを課徴金として賦課できるという内容になっています。この改正は、企業にとって事実上の罰則強化だといえます。


まとめ

企業としては、数ある広告の中に埋没しかねないからといって不当表示に走ることなく、客観的な事実や合理的な根拠に基づいた慎重な広告活動を行うことが求められます。

また一方で、一般消費者としても、広告の内容を鵜呑みにせず、本当に優良な品物なのか、あるいは本当に有利な取引条件なのか、これらをいったん疑ってかかるような自衛の姿勢が必要だといえます。

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